さまざまな分野の女性リーダーに、自分にとっての「働く」「育てる」を聞くこの連載。2019年に東京大学で初の女性の学部長となった秋田喜代美さんへのインタビュー後編では、子どもの学ぶ意欲を引き出すための親の関わり方や、絵本の読み聞かせで大切なことなどについて伺います。
(前編)秋田喜代美 子の発達に学ぶ意欲刺激され、再び大学へ

子どもたちの時代に求められるのは
―― 子育てをしていると、いろんなことに好奇心を示す子どもを間近に見て、つくづく人間は本来、学びたい欲求を持って生まれてきているんだなと感じます。
秋田喜代美さん(以下、秋田) もし、子どもがそうやって好奇心を示すことや面白いと思うことに、周りの人も面白いと思ってあげられる環境があれば、子どもは「認められている」と自信を持ち、安心して自分の興味・関心を掘り下げていくことができます。
学校でも家庭でも、他の子と比較することなく、その子らしさを受け止めてくれる誰かがいるということが大切なんですね。子どもの好きなことを一緒に楽しむ“共感者”のような存在です。パパやママは親としての役割だけでなく、遊び心を持って一緒に楽しむ場面があると、子どもにとっては大きな支えになります。
―― そう思っていると、接し方は大きく変わりますね。今の子どもたちが大人になる頃、社会で求められるのはどんな力でしょうか。
秋田 それは恐らく「自分ひとりでさまざまな知識を身に付け、効率よく物事を処理できる力」ではなく、「いろいろな人との出会いの中で、自分らしさを発揮できる力」だと思います。
目標を達成するためには、他の人たちと協力して物事に取り組む必要があります。そのプロセスで自分の創意工夫が周囲に認められ、「自分だからこそできた」という経験があることが幸せ(well-being)につながります。それには、テストで高得点を取ることを目標とする従来の学力観に縛られずに、多面的に「その子らしさ」を認めて伸ばしていくという視点が大切になります。
今の学校教育では「何を学ぶか」に加えて「どのように学ぶか」のプロセスも重視されるようになっていて、授業や教科書の内容も変わってきているんです。ですから、「自分が子どものときはこうだった」と自分の思いの枠に子どもを押し込めるのではなくて、子どもと一緒に新たな学びの世界に飛び込もうという気持ちでいたほうがいいかもしれません。