同じ会社に入社し、新入社員の時にひと月の間、同じ工場の研修を割り当てられた同期の男女たち。スタート地点は同じだったはずなのに、いつしか皆が別々の道を歩み始める。仕事、夫婦関係、子育て、友情…。それぞれが抱える葛藤や悩み、生き方を、人気作家・朝比奈あすかさんが描く。
菜々と拓也は同期入社で結婚した夫婦。物語は数年前、妊娠中の菜々が元同期の男女数人を新居に招待したところから始まる。元イツメン(いつものメンバー)の集合がうれしくて、張り切って料理を作る菜々。一方、夫の拓也は……。
【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
三芳拓也…菜々の同期で夫。
「今日来るのは、まあどうせあいつらなんだし」
「ある意味、リハーサルだからさ」
夫の拓也がそれを言うのは、もう3度目だ。
「そのうち上司とか、部署の先輩たちを呼ぶかもしれない。そっちが本番。今日来るのは、まあどうせあいつらなんだし、失敗していいから気楽にいこう」
そうね、気楽にね、と菜々は相づちを打ちつつ、玉ねぎを薄切りしている。
一方、拓也はさっきからサイドボードの上の写真立てや時計の角度を微調整するなど、落ち着かない様子だ。彼は昨日の朝も突然リビングの壁に対し「このあたりが寂しいな」などと言い出して、会社帰りに花屋でリースを買ってきて飾った。絶対気楽にいってないと菜々は見ている。
「こういう機会でもないと集まれないもんね、楽しみ~」
拓也をリラックスさせようと明るく言いながら、菜々はまな板の上でうすい紙みたいになった玉ねぎを、ボウルにためた水の中に入れる。

すでに何品も用意していたが、ちょっと思いついて、刺し身をただ出すだけでなく、マリネにすることにした。妊婦の自分はアルコールを飲まないが、レモンできゅっとしめたマリネは、最初のシャンパンに合うだろう。
「そうだな。辞めたやつとはずっと会えてないしな」
「サオリンや麻衣なんて、何年ぶり?」
「サオリンは主婦だろ、世界だいぶ違うかもな」
「麻衣はTwitterよく更新してるから、なんか、あんまり会ってない感じしないけどね」
「暇なんだろ、あいつは」
と、ようやく拓也が笑った。