菜々と拓也は同期入社で結婚した夫婦。数年前、妊娠中の菜々は「子どもが生まれて生活が変わる前に」と、元同期の男女数人を新居に招待した。拓也の選んだセンスのよい観葉植物とお洒落なインテリア、菜々の美味しい手料理。パーティーは盛り上がり大成功した、はずだったが……。
【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 朝比奈あすか 小説・第1話/新居に同期が集まった夜
三芳拓也…菜々の同期で夫。
<同期入社のメンバー>
江原愛美…菜々より一足早く産休・育休を経験したワーキングマザー
福田沙織…入社後数年で結婚、退社し海外で主婦に。現在は帰国している
板倉麻衣…5年ほどで会社を辞め、WEBライターとして活動中
岡崎彩子…菜々と同期入社ではないが同学年で、隣の部署で働いている
「そういえば菜々、ずっと立ってるじゃん」
双方の両親に少しずつ出してもらった資金に2人の貯金を足して頭金を作り、35年ローンを組んだ60平米。東向きの中古とはいえ、ベランダに面した2部屋をつなげてつくったリビングルームは、拓也のおかげでいつも片付いていて、まるでカフェみたいだ。
昨日彼が買ってきたリースは、菜々なら選ばないだろうグリーンのものだった。地味なリースが、白い壁につけたとたん楚々(そそ)とした可憐さで辺りを彩る。部屋がいっきにあか抜けた。
初めて会った時から、拓也は服装や持ち物がひときわ洒落ていて、菜々がそれまで出会ってきた男子とはタイプが違った。ファッションやインテリアの専門誌を熟読し、雑貨の写真を撮ってSNSにアップするような男の子に、菜々はそれまで会ったことがなかった。

見た目もしゅっとしている東京育ちの拓也に付き合おうと言われた時、自分でいいのかと、菜々はびっくりしたものだ。拓也は菜々以上に結婚願望が強く、付き合って半年後にはプロポーズをされ、人生の急展開に菜々は少々たじろぐほどだった。
鯛の柵を薄切りしていると、トイレや洗面所など水回りの最終点検をしてきた拓也が、
「そういえば菜々、ずっと立ってるじゃん。料理も後はやるから、ちょっと座ってなよ」
と言ってくれた。
「大丈夫、大丈夫。もうこれだけだから、作っちゃう」
優しい言葉にうれしくなって、明るく言う。
つわりの時期はいつも眠くてだるかったが、安定期に入ってからは比較的体調がいいのだ。
以前は、電車などで妊婦さんを見かけると、あんな体で出歩いて大丈夫なんだろうかと心配になったが、自分がなってみると案外やっていけるものだった。というより、まだ妊婦さんに見えない頃のほうがずっとつらかった。
あの妊娠初期を命からがら乗り切り――本当に、あの吐き気と眠気の中で、よくぞ働けたもののだと今思う――、明らかに妊婦さんに見える今、むしろ体の奥に力がみなぎってきた気さえする……と思ったところで、
「あ、痛い」
下腹をキュウッと押される感触がした。