拓也と菜々の新居を訪問した帰り道。麻衣と愛美、北川、坂東の4人は、駅前のショットバーで久しぶりに飲み、新人時代のノリを懐かしむ。仕事と家庭を立派に両立させる愛美を、自分でも不思議なほど尊敬する麻衣。それとは真逆の道を進む麻衣は、こんなはずじゃなかった…と、何ともいえない気持ちに――。
【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 新居に同期が集まった夜
第2話 同期会解散後、夫の口から出た思わぬ一言
第3話 妻を無視する夫 「ほんと鈍感だろ、こいつ」
第4話 「妊婦が人を招くなんてドン引き」夫の言葉に妻は
第5話 言っちゃ悪いが無味乾燥で、寒々しい新居だった
第6話 充満するたばこの煙が、昔の記憶を呼び覚ました
第7話 正直言って、事故みたいに始まった恋愛だった←今回はココ
江原愛美…同期の中では早く昇進し、産休・育休を経験したワーキングマザー
坂東、北川…同期の男子メンバー
三芳拓也…新人時代に麻衣と付き合っていたが、現在は同期である菜々の夫
「こんな時間に外で飲むの何億年ぶりって感じ」
たばこを吸い終えた愛美は、生ビールをごくごくごくと飲んでから、
「あー、おいし!」
と言った。

その言い方が、いかにも実感がこもっていて幸せそうに響いたので、麻衣はつい笑ってしまう。
「CMみたいに飲むんだな」
北川も笑う。
「いや、最高。ていうか、もう、外の店で飲めるだけで最高」
感慨深げに愛美が言った。
「あー、やっぱ、子どもが小さいと夜に外出できないって言うよねえ」
麻衣が言うと、
「うん。こんな時間に外で飲むの何億年ぶりって感じだよ。仕事でも、今は、出張とか接待的なものはだいたい他の人にお願いしてるし」
と、愛美が答えた。
「ほんとよくやってるよ、愛美は」
麻衣は心を込めて言った。本当にそう思った。愛美は外で会社員、家で母親業と、2つの仕事を抱えているのだ。すごすぎないか?
先ほど菜々の家で飲んでいたとき、愛美が少しだけ自分の話をしてくれた。
彼女の夫は、飲食店に勤めており、出勤が遅い分、帰宅も遅い。共働き対策で実家のそばにマンションを買ったというのに、愛美のお母さんは少し前に体を壊し、とても孫の面倒を見られる感じではなく、むしろ介護が必要なくらいだという。お父さんはまだ現役で働いていて、いざというときに子どもを預ける場所はない。
「一人何役もこなしているよ」と笑いながら言う同期の姿に、いまだ母親に洗濯をしてもらい、ベッドを整えてもらい、3食作ってもらえている実家暮らしの麻衣は、恥ずかしくなったのだ。