子育ての“常識の壁”を突き抜けろ!
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5「女性は数字に弱い」のバイアス 起業にジェンダーの壁←今回はココ
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6親のジェンダーバイアスで子の可能性を狭めていないか
「わが子には新しいビジネスを生み出せる大人になってほしい」と考えている親もいるでしょう。あるいは自身が「将来は起業したい」という人もいるかもしれません。しかしそこに、ジェンダーの壁が立ちはだかるとしたら――? そこで特集第5回・6回では、23歳の現役大学生で、ベンチャーキャピタリストの江原ニーナさんに女性起業家が増えない理由や、立ちはだかる壁、取り組んでいる改革について話を聞きました。
前編の今回は「起業や投資の世界に女性が少なすぎる」という江原さんの主張を基に、そのことが社会に与える影響について考えます。続く第6回ではベンチャーキャピタリストとしての立場からジェンダー平等に取り組む江原さんの試みを聞きます。加えて、次世代にジェンダーバイアスを引き継がせないために子育てでどのようなことをしたらよいかを、弁護士でジェンダーバイアスをなくすための提言を行っている太田啓子さんに聞いていきます。
【前編】「女性は数字に弱い」のバイアス 起業にジェンダーの壁 ←今回はココ
【後編】親のジェンダーバイアスで子の可能性を狭めていないか
ANRI シニアアソシエイト 江原ニーナさん
1997年生まれ。15歳のときに父の仕事の都合で米国ノースカロライナ州に移り、高校と大学の計4年間を過ごす。米国の大学では政治学を学ぶ。現在は一橋大学社会学部に在籍し、テクノロジーと人間との関わりを研究する傍ら、スタートアップ企業に投資する独立系ベンチャーキャピタルANRIでも働く。数少ない女性ベンチャーキャピタリストの一人として、noteやSNSなどで日本のスタートアップにおける男女差について問題提起を行っている。これまでにフェムテックブランドを扱うBLAST、音声コンテンツ制作のEARSなどへの投資を手掛ける。
8カ月間で出会った起業家の中で、女性はたった2人
日経DUAL編集部(以下、――) 子の性別にかかわらず「わが子に起業家マインドを持ってほしい」と願う親は少なくありません。江原さんは、「ベンチャーキャピタル(VC)や起業家など、スタートアップに関わる分野に女性が少ない」とSNSなどで指摘していますね。実際に、現場で働く実感として、女性の割合はどれくらい少ないのでしょうか。
江原ニーナさん(以下、敬称略) まず投資家サイドを見ると、特に起業したての会社に投資を行う「シードVC」と呼ばれる分野には、女性は10人に1人くらいしかいないという印象です。直接起業家と会って投資を判断する立場となると、より少なくなると思います。
起業家の場合は、さらに数が減り、20人の起業家の中に女性は1~2人くらい、という印象です。25~35歳くらいが多いです。私は以前、別のスタートアップ企業で働いていて、起業家たちが集まるコワーキングスペースを利用していたのですが、そこにいた8カ月間で出会った女性起業家はたった2人だけでした。最近では、起業がムーブメントとして盛り上がってきているものの、それでも女性はまだまだ少なく、年齢にも偏りがあると感じます。
―― 中小企業庁の「中小企業白書(2019年版 )」によれば、2017年に起業した女性の数は4.4万人で、男性の11.6万人に比べて少ないものの、その割合は増えつつあると指摘されています。自己資金の範囲内で起業する女性の話はよく聞きますが、ベンチャーキャピタルなどから投資を受けて上場を目指して事業を拡大していく人となると、まだまだ少ないのですね。
江原 そうですね。投資家を説得して資金を集めたり、エクイティ(株主資本)で資金調達をしたりする女性となると、数が激減すると思います。私は高校と大学の計4年間をアメリカで過ごしましたが、アメリカではようやく今、女性起業家の数の少なさが社会全体の問題として認識され始めています。一方、日本だとまだ問題意識すらきちんと共有されていないような状況です。
―― アメリカも同じような課題を抱えているのですね。
江原 はい。2017年あたりから「#MeToo」運動が広がり、最近だと「Black Lives Matter」運動などの多様性に関するムーブメントが起きていて、ようやく今、現状を認識し、どう解決していくかという流れに向かっています。日本でも「#MeToo」などの動きはありましたが、社会全体としては、まだまだそうしたステージにたどり着いていないなと思います。
―― なぜベンチャーキャピタルや起業家には、女性が少ないのだと思いますか?