復帰後は「定時で帰る」をミッションに
そもそも育休をきっかけに体に負荷のかかる働き方を変えようと考えていた橘さんは、職場復帰後、とにかく定時で帰ることをミッションにしました。とはいっても業務が減るわけでもないので、業務効率を上げることに力を注ぎます。
そこで役に立ったのが、育休中に知り合ったパパ友との交流や復帰後を見据えて足しげく通ったワークライフバランス関連のセミナーで得た知識でした。
例えば…
■人にお願いできることはお願いする(自分だけで業務を背負い込まない)
■資料は凝らない(内容が伝わればいい!と割り切って時間を短縮)
■メールはできるだけ短くする(用件のみにすることで書く方はもちろん読む方の時間も短縮)
その結果、業務効率はかなり上がったといいます。ただ、定時退社に向けてさらに大事だと感じているのが「職場でのキャラづくり」だそうです。
「定時で帰るためには周囲の理解も必要です。 『無理やり定時で帰る人』というのは、正直、周りからの印象が良くないですよね。だからこそ必要になるのが『定時で帰るために頑張るいいパパ』というキャラづくりです。具体的にはチーム内でよく子どもの話をしたり、チームで共有しているスケジューラーに学校や保育園の行事予定も登録したりしています。キャラが浸透することで、周りの目も変わりました」
育休を取った男性からは「同期の出世にモヤモヤする」という話をよく聞きます。しかし、そもそも同じペースで出世することや出世についてこだわりが深くないこともあって、その部分ではそこまでモヤモヤすることはなかったという橘さん。しかし、また少し違うモヤモヤがあるそうです。
「育休中にパパ友や地域の人たちをはじめ、会社中心の生活ではなかなか出会うことがなかった社外の人たちとの交流も増え、会社以外の世界を知ったことで、自分自身の生き方や働き方への思いや価値観、キャリアパス、スキルが大きく変化しました。そうすると、育休前と同じことをしているはずなのに、当たり前だと思っていたことに、違和感を覚えるようになりました。会社がやりたいことも分かるけど自分としてはこうしたい、こうする手もあるんじゃないかと感じることも出てきて。サッカー選手になりたいのに、野球選手として頑張れと言われているような感覚というか、会社が求めるものと自分の目指しているもののミスマッチ。これってきっと、どっちが悪いということではないと思います」
当たり前のことですが、橘さんが育休を取得しても、会社の中身が変わることはありません。育休を通じて起こった橘さん自身の変化が思わぬモヤモヤを生んでしまったというのは歯がゆいところ。そして、最後に橘さんはこう付け加えました。
「このモヤモヤは、男性の育休取得の問題ではなく、ママたちが既に経験してきた育休全般の問題なんです。産休や育休を通じて生き方や働き方の価値観が変わった自分と変わらない会社とのギャップを感じるという、ママたちがずっと戦って来た問題の土俵に、やっとパパたちが上がった気がします」

取材・文/杉山錠士