女性リーダーに学ぶ 新しい子育て
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2高橋祥子 育児を根性論で乗り越えない 生命科学の視点←今回はココ
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3平川理恵 娘は12歳で留学決意 自立早めたものは
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4中村亜由子 スキルや勉強より「自分で選択できる子」に
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サイエンスを子育てに取り入れるメリット
「妊娠・出産するまで、女性だからという理由で不利益をこうむったり、大変だと感じたりすることは個人的な体験としてはありませんでした」
父親をはじめ、周囲に医師が多い環境で育ったという高橋祥子さん。将来を考えるときも「医師か」「医師以外か」といった選択肢で考えていたといいます。「病院に見学に行ったら、当たり前ですけど、病気の人しかいなくて衝撃を受けました。病気になってから治す医療はもちろん必要ですが、病気になる前に、病気のリスクを予測して回避できないかと、農学部へ進み、生命科学の視点から、生活習慣病の予防のメカニズムについて研究しました」
東京大学大学院博士課程在学中の2013年に、個人向けに遺伝子解析サービスを提供するジーンクエストを起業。それぞれの体質や疾病リスクなど、300項目以上もの遺伝子を解析して、生活習慣改善の助言なども行うサービスを提供しています。「どんどん高齢化が進む日本で、研究したことを社会実装するために起業しました。研究者からビジネスの世界に軸足を移したわけではありません。サービスと研究を両輪で走らせる仕組みをつくれば、サービスが広まれば広まるほど、データが蓄積され、まだ分かっていない病気のメカニズム解明など新しい研究にも役立てることができると考えました」
2017年には、ジーンクエストがユーグレナのグループに入り、高橋さんは翌年、ユーグレナ執行役員に就任。2020年に出産を経験し、現在は1歳児を育てる母親でもあります。
「育児が大変なのは母親のせいではありません」。妊娠・出産、育児のあまりの大変さに疑問を抱いた高橋さんは、自分の専門分野である生命科学の視点から読み解き、無理なく子育てをするための仕組みづくりを行ってきました。
「人間の子どもはほかの動物と比べても明らかに脆弱に生まれてくる仕組みになっています。『人間の子育ては集団で行うもの』ということが、生物のシステムとして組み込まれていると考えられます。科学的に見て、育児は母親1人に押しつけるようなものではないんです。母親が自分自身を責めたり、根性論で乗り切ろうとしたりしないほうがいいと考え、実践しています」

起業以降、ほぼ休むことなく事業に専念し、まもなく創業7周年というタイミングで出産した高橋さん。2カ月の産休を取ることに不安もあったものの、復帰後、チームの成長を感じたといいます。
「経営経験が育児に生かされると同時に、育児の経験が経営にも生かされている」と話す理系リーダーの高橋さんが実践する「新しい子育て」とは? 女性のリーダーや研究者、起業家を増やすために社会全体で取り組みたいことについても詳しく聞きました。