保育の課題は土地から人材確保へ
ここまで自治体の取り組みの変化を見てきました。増え続ける保育ニーズに自治体も応える姿勢を見せているものの、施策がニーズに追いつき切れないのが現実です。取り組みを阻んでいるものは何なのか。調査では、「認可保育園の整備を進めるに当たっての最も大きな課題」も聞きました(複数回答)。
16年調査では、「最も大きな課題」の1位は「用地・物件の確保」(30.6%)でした。しかし19年調査では、1位が「保育士の確保」(34.1%)に変わり、「用地・物件の確保」(27.3%)を上回る結果に。保育定員を増やすための課題が、土地や建物などのハード面から、人材というソフト面に移ってきたことが見て取れます。
1、用地・物件の確保 30.6%
2、保育士の確保 28.6%
3、財源の確保 12.9%
↓
<2019年>
1、保育士の確保 34.1%
2、用地・物件の確保 27.3%
3、将来の需要予測の把握が難しい 10.6%
保育士不足がますます顕在化してきた背景としては、「手厚い配置が必要な0歳児の申請数が増えていることに加え、保育士の業務負担が増えていることも見逃せません」と、池本さん。「保育時間が長くなっていることに加えて、教育的なプログラム、園児のアレルギー対策、ときには虐待対策や貧困対策まで、保育士の業務の幅が拡大しています。賃金に見合わない負担の重さに離職する人も多く、このためOECD諸国に比べ日本は若い保育士の割合が高い傾向にあります。保育士を増やすには、賃金アップはもちろん、クラスを少人数化して負担を減らすなどの処遇改善が必須です」
人材面の課題については保育園にとどまらず、学童保育の指導員不足も指摘されています。「学童保育の指導員の勤務時間は、平日は夕方以降、土曜日や夏休みなどは1日中と不安定で、賃金も低いため、なり手が少ないのが現状。また、開所時間が延びているのは、共働きの親にとってはありがたいのですが、指導員の確保という意味ではマイナスの要因となっています」
これまで学童保育については1教室に常時2人以上の職員を配置し、そのうち1人は保育士などの有資格者であることが義務付けられていました。しかし19年度にこの運営基準が緩和され、職員1人でも学童を運営することが可能に。今回の調査では「職員1人でも運営する」と答えた自治体はありませんでしたが、今後は質の担保が課題の1つになっていくでしょう。
「海外では、学童保育の指針が学校の教育カリキュラムと一緒に定められていたり、指導員の資格が教員免許と同等に扱われたりする国も。学校と学童保育のコミュニケーション不足が解消され、指導員の雇用も安定します。こうした取り組みを、日本も参考にすべきではないでしょうか」と、池本さん。
保育園、学童保育などを含む福祉に関わる人材の育成や待遇改善など、自治体には一層の努力が求められます。
日本総合研究所 主任研究員

文/久保田智美(日経DUAL編集部) 写真/鈴木愛子