子ども達の「ええとこ」を見てもらいたい!
通わせている保護者には見えないかもしれないが、子どもを持つ教職員からの意見も反映させて、学校現場は努力していることを伝えたい。
その思いやりは、プログラムの企画の段階からちりばめられている。どの子も、カッコよく見えるように。力を発揮して「ええとこ」を見てもらえるように。
敷津小学校は、全校児童90名の小さな学校だ。だから、全員の児童が徒競走の前に「一言宣言」をする。「4年い組 ○○です。3番までには入るようにあきらめずに走ります!」5年生では「5年い組○○です。ここで一句。『徒競走 力いっぱい がんばるぞ』」などと五七五を披露する者まで。子どもも親も、見せ場いっぱいのアットホームな運動会になっている。
組体操は、5、6年生合わせて24名しかいないため、教員や学生ボランティアを補助に入れて成立させている。大きな学校なら「10人タワー」は体の大きな選ばれた児童がやるべきだが、敷津小では全員の力を合わせて何とか立てている。単純な仕上がりの出来で比較されたくない、事情をそれぞれの学校やクラスが抱えている。
10人タワーは男女1つずつ立てた。男子が一回でスムーズに立ったのも涙、女子が苦戦の後に立てられた時も過程を知るだけに感激した。安全面を考えて、教職員がつかず離れずでサポートしている
直前の練習では、女子のタワーが立てられないまま終わっていた。当日、2回やり直して無事に立った。その瞬間に、「失敗しながらようやく立てた」と思う一見の観客がいるかもしれない。
だが、担当した教員たちは知っている。怖がって背中に乗れない子どもたち、2段目の子の重みで立ち上がれない1段目、立ち上がるタイミングがそろわなくて崩れてしまった日、不安定な最上段で恐怖心と戦っている気持ち。
子どもたちが積み重ねて来た1カ月以上の練習の日々を、私たちは共有している。だから、泣く。また、担任や彼らの成長を眺めてきた教職員には、別の思いもある。私の隣で、前の前の校長先生が見てくださっていた。「あの小さなSがねぇ、大きくなったなぁ」。
今年、敷津小の運動会が最後かもしれない糸井教頭は、目を赤くして組体操を眺めていた。私たちにとって、あのタワーは失敗などではなく、あきらめずに子どもたちが本番で力を出し切った、最高にカッコイイ「完成品」だったのだ。
保護者席に目を向けると、泣いているお父さん、お母さんの姿が見える。私たちが預かった6年間以上の思いが、そこにはある。生まれたその日から、今日までの。
学校と日程がずれていたので、娘の保育園最後の運動会を見ることができた。彼女は、毎日まいにち、足を傷テープだらけにして、鉄製の竹馬に取り組んでいた。今日は何周トラックを回った、こんな技ができた……会えば運動会の話ばかりだった。当日、緊張してニコリともしない娘を見守る。兄妹同様に育った他の子どもたちにも、めいっぱいの声援を送る。全員が竹馬で山越えを成功させて並んだ時の、誇らしげな顔! 涙々の親同士、話さなくても「よかったね」「大きくなったね」という思いが通じ合う。
退場する時に目が合い、ようやくほほ笑んでくれた娘に手をふりながら、子どもってのは親のアイドルなんだと、親バカ丸出しで思う。だからこそ、しっかり見てほしい。でも、運営や安全上、優先しなければならないこともある。少人数だからできることでも、大規模校ではできない。それぞれの学校が、バランスを取りながら運営しているのだろう。そこに「地域の事情」「伝統」「教職員間の価値観の違い」が入ってきて、刺激的な運動会初体験だった。