それは9年前の女性社員の言葉から始まった

 「社長、2人目を妊娠しました。育児休業を取ります。でも、1年間まったく仕事をしないと、仕事についていけません。また、収入も必要です。育児休業中も在宅で少しでも仕事をさせてください」

 今から9年前、私が経営するワイズスタッフの女性社員がこう言った。社員が自ら「育児休業中でも在宅勤務で働き続けたい」と言ってくれたこと、テレワークを推進する者として、とても嬉しかったことを覚えている。

2005年、育児休業中の在宅勤務を希望した女性社員の赤ちゃんと
2005年、育児休業中の在宅勤務を希望した女性社員の赤ちゃんと

 彼女は1人目の経験から「赤ちゃんが寝ている時間・早朝・深夜を利用すれば、細切れだが、1日2~3時間程度は働ける」と考えたのだ。社内のことを詳しく把握している彼女が、休まずに仕事を続けてくれることは、会社としてもありがたい。喜んで承諾したが、そこには思わぬ『壁』があった。

 その『壁』は、皮肉にも出産・子育てを支援する制度だった。たとえ短い時間でも、在宅勤務で毎日働くと、育児給付金が支給されない。このことは、彼女にとって大きなストレスとなった。

 数時間働いても1日とみなされる条件での、10日の制限は厳しかった。かといって、赤ちゃんがいる生活の中で1日8時間は働けない。月の半ばに「今月はこれ以上仕事をしたら給付金が出ない」状況に陥る。中途半端な仕事になり、同僚に迷惑をかけ始める。収入も想定していたより少ない。

 私は労働基準監督署に出向いた。「本人都合で多くても1日4時間程度しか仕事ができない。所定労働時間の半分なので0.5日と考えて、20日働いても支給してもらえないか」という相談に、「決まりですので、10日以下でないと支給しません」との返答。結局、女性社員は、そのストレスを解消できないまま「10日以下」で在宅勤務をし、育児休業給付を受けながら1年間の育児休業期間を終えた。