住まいで過ごす時間のなかで、最も家族が集まりやすいのは食事の時間だろう。みんなが笑顔で食べられるおいしい食卓は、食べる空間のあり方にも左右される。積水ハウス総合住宅研究所の河崎由美子課長に、「つくる場」「食べる場」「しまう場」としての食空間づくりのコツを教えてもらおう。
2人以上でも効率的に作業できるセパレートキッチン
住まいのなかの食空間といえばキッチンとダイニングだ。近年では30代を中心に夫婦や子どもたちと一緒に食事をつくるファミリーが増え、キッチンを家の中心ととらえる考え方が目立つようになった。だが、キッチンそのもののプランについては、さほど深く考えられていないケースがほとんどだという。
積水ハウス総合住宅研究所の河崎由美子課長。「30代の夫婦は一緒に食事をつくることが多い」と話す
「最近のシステムキッチンは、作業のしやすさよりもデザイン性を優先するキッチンが多く目につきます。例えばシンクやコンロには左右両側にものを置くスペースがあると作業がしやすいのですが、たいていは片側だけです」
現状のキッチンはシンクとコンロが横に並ぶ「I 型」が主流なため、作業スペースを増やすとカウンターが長くなるため、スペース的に採用しにくいという課題もある。そこで河崎さんたちは作業しやすい調理空間を実現するため、料理研究家にも協力を仰ぎ、調理する際の人の動きを徹底的に分析した。その結果、たどり着いたのがシンクとコンロを分けて二列に配置する「セパレートキッチン」だ。
シンクとコンロを分けて配置する「セパレートキッチン」。二列になっているのがポイントだ
「下準備や洗い物をするシンクと、火を使って調理するコンロを分けることで、ものを置くカウンターが分散され、作業効率が高まります。実験によると、ものを置くカウンターが1つのキッチンよりも、カウンターが2つのものの方が、作業時間が短く済みました。その差は、カウンターをふいたり、ものを整理する時間でした。セパレートキッチンではシンクとコンロの左右両側にものを置くスペースを確保しやすいので、こうした無駄な動きを減らすことができるのです」
洗い物と調理のスペースが分かれることで横への動きが少なくなり、作業中の移動距離も短くなる。特に2人以上で調理するときに、効果が大きく現れるという。I 型キッチンと比較した実験結果によると、1人で作業する場合は作業時間、移動距離とも5%以上、2人での作業では20%前後も短縮できたそうだ。