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第1回「『怪しい人についていくな』では、子どもは守れない」
第2回「地域の安全マップ作り、隠された本当の目的とは?」
――悲しいことですが、子どもの誘拐事件は無くなりません。
そうですね。そういう事件が起きると、取材などで必ず聞かれるのが「親が子どもを迎えに行かないのが悪いのでしょうか」ということです。しかし、僕は親のせいにするのはどうかと思うんですよ。
「海外では子どもを一人にしない」という話は、よく引き合いに出されますが、それは、その国がそういう環境になっているからこそできること。父親が幼稚園や学校に子どもを迎えに行けるような社会になっていない状況で、何もかも親のせいにするのは間違っています。「子どもを一人にするな」というのは、今の日本では限界がある。だったら、子どもは自分で自分の身を守るようにしていかなければ。僕はそういうスタンスで、やってます。
――それが今日、子ども達に話していた「危ない場所は景色に聞く」ということなんでしょうか。
そうです。といっても、あれもこれもとたくさん教えても、覚えられませんよね。だから、覚えてほしいポイントを2つに絞りました。
危ない場所の目印は、「入りやすい所」と「見えにくい所」。
このポイントを身につけ、そういう場所を避けるだけでも、犯罪の犠牲者になる確率はかなり下げられます。これこそ、親が知っておくべきことであり、子どもに伝えるべきことなんです。
――授業(第2回参照)では学校周辺を歩きながら、そういったポイントを見つけて歩きましたね。
フィールドワーク中に見つけた、駐車場(右)。子どもたちは「フェンスがないから入りやすい」と判断した
そうですね。例えば駐車場や空き地にフェンスがあれば、そこには入りにくくなります。フェンスが無理なら、ロープ一本でもいい。ロープがあれば、犯人はそれを外してまで中に入ろうとは思わないものです。それに対してガードレールの無い道は入りやすい。
幹線道路のすぐそばにある場所も、近づきやすく逃げやすい、つまり入りやすい場所なので、犯罪が起こりやすいんです。反対に奥まった場所は、犯罪が起こりにくい。でも、イメージは反対でしょう? 幹線道路のそばは人通りが多いから安全、奥まった場所のほうが危ないというイメージはありませんか?
「誰かが見ている」は「誰も見ていない」のと同じこと
――確かに、そういうイメージはありますね。「人通りが少ない場所は危ない」と子どもの頃に教えられたことは、体に染み付いています。
「誰かが見ている」は「誰も見ていない」のと同じ。人が多いから安全ということはない(写真はイメージです)
でも実際は、量販店や駅前広場、ショッピングモール、アウトレットなど、人通りが多い所でよく誘拐事件が発生しています。親に話を聞くと、必ず「人がたくさんいるから大丈夫だと思った」と言いますが、居合わせた人に話を聞いても、誰の記憶にも残っていない。これが、不特定多数の人が集まる場所の落とし穴なんです。「誰かが見ている」は「誰も見ていない」のと同じ。人が多いから安全ということは、絶対にありません。
「暗い道は危険」ともよく言われますが、実際は暗い道では犯罪は起きにくいんです。犯人だって、私達と同じ人間なんだから、私たちが嫌なことは、犯人も嫌なんです。それに、暗いと子どもの顔もわからないし、そもそも、暗いときは獲物である子どももあまり歩いていないから、明るい場所で犯罪を犯します。犯人は、我々と同じ人間だというところから出発しないと、なかなか犯罪者の行動パターンは理解できません。
――他に昔から言われている警句に「怪しい人に気を付けて」というのもありますね。
怪しい人なんて、見て分かるものではないでしょう。その証拠に、テレビのニュース番組で犯人の近くに住む人に話を聞くと、みんな「そんなことをするような人には見えなかった」と言いますよね。大人が見ても分からないんだから、子どもが見たって怪しいかどうか分かるはずがないんです。だから「怪しい人に気を付けて」なんて言っても意味が無いんです。
――では、子どもが危険な目に遭わないようにするには、どうすればいいんでしょうか。
子どもに対する犯罪は、ほとんど「だまし」で始まります。とすれば、親が子どもに教えるべきは、どうすれば「だまされないか」ということです。
人間は、だまします。だから、人間を見て判断しては駄目。人間を見た瞬間、子どもは簡単にだまされます。
――防犯マップ作りでも、「だまされない」と言っていた子ども達が簡単にだまされていました(前回参照)。
だから景色を見るんです。景色はだましませんから。景色を見て、そこからメッセージをキャッチすること。その方法を子どもに教えることが、最も重要です。