徹底的な世論調査で、区民の声を拾い上げるシステムを作っている
西川太一郎・荒川区長
DUAL編集部 他区の区長さんの中には、乳幼児の間は家庭での保育を推奨すると明言されている方もいます。つまり、0歳児保育を区の認可保育園では行っていないのです。
西川区長(以下、敬称略) それも一つの考え方でしょう。親とのスキンシップを重視するということですね。私が言いたいのは、子どもを預けて外で働く・働かないにかかわらず、「家庭教育はしっかりやってください」ということです。「親になるには、それなりの準備が必要でしょう」、と。
家族の方針で子どもを育て、そのうえで、スタンダードな教育は保育園や幼稚園、学校などにお願いする、という姿勢でいてほしいのです。「家庭教育」「社会教育」「学校教育」。この三位一体で、初めて子どもの教育が可能になります。どんなに小さな子どもでも、それは変わりません。
また、私が区長として大切にしているのは、区民が必要としていることを吸い上げ、「格差・不平等・貧困の連鎖」を無くしていくこと。地方行政の基本はそこにあると思っています。例えば今、アベノミクスで「経済政策をこうしよう」というのは大方針です。その大方針を、こなれたものにしていく、かゆい所に手が届くようにするのが地方行政です。
区民ニーズを吸い上げるために、世論調査を重視
―― 具体的にはどうやって区民のニーズを吸い上げているのでしょう?
西川 荒川区では、世論調査に重きを置いています。本来は調査部を設けてまで行いたいところですが、現在は総務企画部をはじめとした部署が兼任で行っています。研究者に依頼して設問を作り、分析も科学的に行っています。我々が考えていることが調査によって裏付けられることもある一方で、全く新しい発見もあります。
世論調査での区民からの要望を受けて、2014年からは病児保育を実施しています。「子どもに対するネグレクトなどの問題にもっと取り組んでほしい」という要望や、「都との共同でもいいので、児童相談所の仕組みをもっとフレキシブルにしてほしい」、という声まで様々です。こうした声は都や国にも上げて、問題提起をしています。詳細なデータがあってこそ、説得力があり提案もできるのです。
といっても、世論調査になじまないものについては、現場で試行錯誤するしかありません。例えば、荒川区の死因の中で、かつては8位だった「自殺」が、5位にまで上がったことがありました。これを受けて、自殺防止活動をしているNPOの指導で、自殺しようと悩んでいる人に気づき、声を掛けて話を聞き、必要な支援につなげていく「ゲートキーパー方式」という方法を取り入れました。今ではこれが効果を上げています。
それから女子栄養大学の協力で、生活習慣病やメタボを防ぐ、栄養バランスのいい“満点メニュー”を、町の飲食店ごとに設けています。さらに、高齢者向けには、転倒を防ぐ体操を専門家に考案してもらいました。こうした取り組みで、平均寿命も少しずつ改善しています。