今回フォーカスする習い事は「音楽」。中でも、スクール情報誌『ケイコとマナブ』調査(2014年)で「今、習っている習い事」の第4位にランクインした「ピアノ」です。全国に教室を展開する「ヤマハ音楽教室」を訪れました。(参考: 「多様化と細分化が進むイマドキ習い事。その理由は?」)
まずは音楽を「楽しむ」。そして、「好きになる」ことから
最初に見学させていただいたのは4・5歳児対象の「幼児科」。このクラスでは、「聴く」「歌う」「弾く」「譜面を読む」などの体験を通じ、音感や表現力の素地を養います。修了時には、楽譜を見なくても、和音やメロディーを聴き取ってドレミで歌ったり、弾いたりできるようになることを目指します。
講師の中村由美子先生に、どんなことを意識しながら指導に当たっているのかを伺いました。
講師の中村由美子先生
「耳と心、両方を育むことが大切だと考えています。音を正しく聴き取る基礎力はもちろん、音楽を『楽しい・好き』と思えるようになってほしい。最初、よく分からないままお母さんに連れてこられた子も『気が付いたら楽しんでいた』となるように工夫します」
「まずは、カラフルなイラストが入ったテキストで目を引く。そして、新しい曲を教えるときには、曲の世界にすっと入り込めるように語りかけます」
「例えば、新しく習う曲がパンに関する曲であれば、『先生のおうちの近くにパン屋さんがあってね、朝の散歩中に通りかかると、パンを焼くいい匂いがしてきてね…』なんて話をして、子ども達に情景を描かせるんです。『かわいいお洋服』という曲を教えるときは『新しい洋服を着てお出かけするときってどんな気持ち?』と聞いたりします。子ども達が想像を膨らませたところで新しい曲を聴かせれば、子どもはその歌に入り込んで、『思わず歌っちゃった』となるわけです」
「読書では『行間を読む』ことで理解や味わいが深まりますが、これは音楽も同じです。楽譜を見たりメロディーを聴いたりしたとき、どんな音楽なのかをつかむ力が身に付けば、自分の思いを音楽で表現することもできるようになります。子ども達が曲のイメージを描けるように、描かれる風景やストーリー、登場するキャラクターの気持ちなどを丁寧に話したり、『どう思う?』と想像させたりするようにしています」
最初は「立っている」・「聴いている」だけでも褒める
子どもが「楽しい」と感じるには、「褒められる喜び」を経験することも大切だといいます。
中村先生はどのような褒め方をしているのでしょうか。
「細かなことでも、いいところを見つけて、たくさん褒めます。『ちゃんと立っている』『先生の話を聴いている』『先生の歌に合わせてマネをする』、そうしたことができただけでも『えらいね!』と褒めます。最初は簡単にできることから始めて、できたことに対してほめます。レッスン中には保護者の方も一緒に参加し、お子さんに付き添っていただいているのですが、お母様方にも、『10のうち9くらいは褒めてあげてください』とお伝えしています」
とはいっても、幼い子どものこと、集中力が続かないことも当然あります。グループでのレッスンのため、ふざけて他の子にちょっかいを出したりする場面も。そんなときも、中村先生はその子をたしなめたり、叱ったりすることはしないといいます。
「ふざけている子を叱ると、その子は『先生にかまってもらえる』と思って増長することもあります。だからあえてかまわずに、ちゃんとできている子をクローズアップして言葉をかけます。『**ちゃん、よく聴いているね、えらいね』と。そうすれば、ふざけている子も『ああしたほうが注目してもらえるんだな』と学んでくれます」
グループレッスンという形式は、他の子の振る舞いから学んだり、協調性を身に付けたりする効果もあるようです。また、「アンサンブル(合奏・合唱)を行うことで、他の子と強弱をそろえたり、抑揚のつけ方を調整したりするといったバランス感覚も養われる」(中村先生)とのことです。
次のページからは、実際に音楽教室に通わせている親御さんに、習い事を通してどんな経験や素質を身に付けさせているか(させたいか)を聞きました。