デンマークでは昼休みに、子ども達が「いじめが無いか」パトロールする

最後に、記者会見参加者から質問が寄せられました。

―― 尾木先生に質問です。尾木先生が1996年にデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドの北欧4カ国に行かれたときに感じた、「いじめ」に対する取り組みという面で、日本との違いについて、さらに何か気づきがあったら教えてください。 

尾木 80~90年代、「いじめは日本人特有の島国根性によるもので、諸外国には存在しない」と主張していた学者もいたほどでした。僕は「そんなバカな」と思って調査をしたところ、いじめの現象についてはスウェーデンの内科医師ハイネマンが 60年代末に“mobbing(集団暴力)”と世界で初めてネーミングし、世界中で問題になっていたわけです。

 北欧4カ国を訪れた際に驚いたのは、子ども達が主体的にいじめを無くすための取り組みをしているという点でした。子ども達が昼休みに2~3人のチームを組んで、「いじめている子、いないよね」とパトロールするのです。

 デンマークでは学校理事会が大きな権限を持っているのですが、校長、PTA会長、地域の弁護士といった13人の理事の中の7人が、小学校5~6年生の子ども達でした。

 僕は校長先生に「子ども達が多数決で何でも決めてしまったらどうするのですか?」と聞いてみたのですが、「決めたことには責任を持たなければならないので、子ども達は物事を決めるのに非常に慎重。いい提案ばかりを出してくれる」とのことでした。

 先日、デンマークの皇太子妃と会談する機会があったのですが、皇太子妃はいじめ防止活動を行う「メアリー財団」の代表を務めておられ、日本のいじめ対策について質問されました。国を挙げて取り組んでいることが分かりますよね。

 他にも、ノルウェーでは週に1度、「いじめはなぜいけないのか」という授業が行われています。

―― アンケートでは「いじめの認知を問う」とのことですが、例に出た北欧4カ国のような人権意識が高い地域であっても、今回のアンケート調査のようなものは行われていたのでしょうか?

尾木 最近のことは分かりませんが、私が調査したときは、こういったアンケートが行われていました。ただ、「いじめを発見する」という側面に重点が置かれていて、「いじめに対する感度を見る」「回答することによる学習効果がある」という点は少し弱いかなと感じました。

―― 現在のいじめはインターネットに絡むものが多いと思いますが、ネットでのいじめに対応した設問はあるのでしょうか?

尾木 SNSを介さないいじめはほとんど存在しないと言われるほど、現在のいじめはインターネットと密接に関係しています。アンケートでも、2つの項目でSNS・メールの要素を取り入れています。

 SNSの発達は子ども達の状況を激変させています。ある調査によると、日本の女子高生のケータイ・スマートフォンの1日の平均使用時間は7時間、男子高校生は約4時間。1日に15時間以上接触する子が女子高生では1割弱もいる。また、別の調査では全国の高校生の6割がネット依存症になっているとも言われています。

 「多摩川中1殺害事件」の被害者、上村くんも、顔に大きなあざを作っていても、多くの子ども達は見て見ぬふりをしてしまいました。人間関係がSNS上の小さなグループに細分化されて、そこで起きていることは外の人間には分からないし、グループの外からは触れられない。そうした状況にもメスを入れていかなければなりません。

この記事の関連URL
『いじめの未然防止・早期発見を目的とするアンケートテンプレート』(プレスリリース)
 http://www.macromill.com/company/release/20150423ogi/index.html

(ライター/阿部祐子、撮影/鈴木愛子)