国際結婚では母親が使う言葉に引っ張られる

川合 私は「父親の母語が英語で、母親が日本人」という組み合わせで日本に住んでいる家庭を数多く知っていますが、小学生くらいの子どもの場合、圧倒的に母親が使う日本語のほうが優位です。

 一方、父親の母語である英語については、日常会話を聞く能力はありますが、話す能力、そして読み書きとなるとはなはだ心もとないケースがほとんど。お父さんだと日中は仕事でいないことが多かったり、飲みにも行かないといけなかったり(笑)、子どもにしっかり寄り添って自身の母語力を育んであげる時間も労力も十分に注げないというのが現状なのでしょう。

 それと比べると、牧瀬家のお子さんはまだ小さいのに、父親の母語である日本語で読み書きができて挨拶もできるなんてスゴイと思います。牧瀬さんが娘さんの日本語力アップのために並々ならぬ時間と労力を捧げている証拠だと思います。牧瀬さんは日常的に日本語で話しかける以外に、どのような工夫をしていますか?

浴衣を着せて子ども達でパーティー
浴衣を着せて子ども達でパーティー

牧瀬 具体的な学習でいうと、公文式の市販のドリルを購入して、ひらがな、カタカナを私が自宅で指導しながら勉強しています。それから、ロンドンの日本大使館に行けば日本の小学校の教科書を無料で提供してもらえるんですよ。長女にとっては少し難しいですが、それも時々学習に利用しています。

川合 なるほど、そうなんですね。

 ちなみにわが家のように日本に住んでいても母親の母語が英語という家庭だと、子どもの英語力は比較的高いケースが多いです。子どもの言語力は、その言葉を母語とするほうの親の努力にかかっているといっても過言ではないのです。つまり、日本では、英語を使うお母さんの頑張りがめざましいですね。

文化にさえ興味を持ったなら、語学学習は自動的に進む

牧瀬 また、例えば、日本からイギリスに移住した家庭で、子ども達の日本語力に危機感を抱いている場合は、週末に開催される日本語の補習校を利用したり、近くに補習校がない場合は近所で開催されている子ども向けの日本語のプレイグループを探して参加したりするのがおすすめです。MixBというイギリス情報掲示板サイトなどを利用して、子育てコミュニティーを作って毎月色々なイベントを開催している日本人の方も多いようですよ。

 ウチの場合は、車で2時間ほど走れば日本語の補習校もあるのですが、まだそこまでさせていません。それよりも私は、日本の文化的な行事にまつわるパーティーを友達の家族と一緒に企画することに力を注いでいますね。そうすることで子ども達が少しでも日本語を学ぼうとやる気になってくれるといいな、と思っています。

川合 日本の文化的な行事を英国で子ども達に体験させるというのは素晴らしいと思います。文化背景のない言葉というのは、英国流に言うと、冷めたcup of teaと同じように味気ないものだと思っています(笑)。

 文化から入る、というのは大賛成です。極端かもしれませんが、文化にさえ興味を持ったなら、語学学習は自動的に進むと思っています。日本の英語教育は文化の面にもっと力を入れれば良いと思います。

長女は日本語を取り入れた空手教室に通っている
長女は日本語を取り入れた空手教室に通っている

 実は、ウチの妻も英国の文化行事は大切にしています。例えば、クリスマスは僕が何と言っても子どもに学校を休ませますし(笑)、11月5日のガイ・フォークス・ナイトは変な人形をこしらえたり、花火をしたりしています。(注:17世紀前半のロンドンで、カトリック教徒の過激派が、時の英国王ジェームズ1世暗殺をもくろみ、国会議事堂に爆薬を仕掛けたことに由来する。暗殺は未遂に終わったが、以来、毎年11月5日には花火をあげる習慣が英国で定着。ロンドンでは花火大会が各地で催される)

牧瀬 こちらでは、子ども達に浴衣を着せてパーティーをしたり、お正月に書き初めをさせたり、節分の豆まきをしたり、桜の下で花見をしたりしていますよ。あ、そうそう、長女は日本語を取り入れた空手教室にも通わせています。とにかく日本と日本文化に興味を引きつけ、その流れとして子ども達が自主的に日本語を勉強してくれるようになったら最高ですね。

川合 それが理想的で一番良い形だと思います。日本文化パーティーを子ども達は楽しんでいますか?

牧瀬 はい。子どもたちは楽しみながら、日本の文化にもとても興味を示しています。文化的な背景を日本語で説明すると難しくなってしまうので、まずは英語で説明しています。そして、パーティーの場での子ども同士の会話は100%英語……。ああ、もっと頑張らなくてはダメですね。

川合 いやいや、子ども同士は、やっぱり互いに得意な言語で会話しようとしますよね……。