人間へのあくなき好奇心が肌ツヤの秘訣?
しゃっきり伸びた背筋、シミ1つ無いツヤツヤの肌、優しく語りかける、よく通る声。でも何より小林照子さんを際立たせるのは、眼鏡の奥で光る瞳だろう。講義は、メークの実際的な技術や小林さんが確立した印象分析理論の総論といった趣だ。耳を傾けていると、小林さんが何度も口にするセリフがあることに気づく。
「人間って、面白いのよ」「人間って不思議でしょう?」
小林さんの瞳がキラキラ輝いているのは、人間に対する純粋な好奇心があるかららしい。人と美容の世界にはまだ解明されていないことが山ほどあるのだと語る表情は、どこかうれしそうでさえある。
外見の第一印象が語ることとは?
小林照子さん
メークの技術を磨きたくてウズウズしている生徒達に、小林さんはこう言い切る。「技術は2番目に大事なこと。ここで皆さんは学ぼうとしているのは、今も根強く残る『欠点修正法』に基づくメークではなく、人の美をつくり出すこと。人にはそれぞれの魅力があり、それをあなた方が言葉できちんと説明できるようにならないといけません」
「欠点修正法」は、小林さんが「標準顔」と呼ぶ一般に「美人」とされる顔立ちを基準とし、どの人の顔も標準顔に近づけることを目標としている。「私がこの業界に入ったのが20歳のとき。そのとき教わったのもこの欠点修正法でした。標準よりも目が離れている。標準よりも鼻が低い……とひたすら欠点を探す。『標準の顔がいい』という思い込みが今も続いています。欠点が無い顔が正しい、良い顔なんだと思われているんですね」
一方、小林さんが経験値に基づいて理論化した「印象分析論」は、まずその人の「今」を顔の造作などから受ける第一印象をもとに言葉で表していく。キュート、ソフト、ゴージャス、フレッシュ、センシティブ……といった8つの大きなカテゴリーに分け、最終的には125にも上るサブカテゴリーに当てはめていく。欠点修正法で「正しい」とされた「標準顔」も、印象分析論では「クラッシィ」という1つのカテゴリーに過ぎない。
「一口に『かわいい』と言ってもコケティッシュ、フェミニン、ロマンティック……というように、かわいらしさの表現は色々あります。30年以上の実践を経て、私はそうした印象のマッピングを完成させてきたのです。インターネットで無料体験もできますから試してみてください」と小林さんは言う。
外見が内面を変え、内面が外見を決める
外見からの印象とは別に、本人が考える自分自身の性格を聞く。どうありたいと思っているのか、どんな側面を表現したいと思っているのかなど本人との話し合いを経て、どのような顔をつくっていくのかを決めていくのである。
なりたい自分になることもできるし、自分の真の姿を表現することもできる。時と場合に応じて自分の顔を作り分けることも可能だ。そんなふうに自分を表現していくテクニックを小林さんが理論化した「和=美(ワナビ、Wannabe)」は、実用新案として登録済みだ。
外見が内面を変え、内面が外見を決定づける。「その両方のバランスを取って表現するのが、メークアップアーティストの神髄だ」と小林さんは言う。そして、実例を見せながらメークの持つ底力を明らかにしていく。