子どもに雅楽を継いでもらおうとは思わない
――子どもができてから仕事のペースは変わりましたか?
それが、意外なほど変わらないんです。僕は自宅での作業が多いので、ちっちが起きているときは遊んであげて、ちっちが寝た後に仕事する、という風にして時間帯がずれたくらいですね。
ちっちが幼稚園や小学校に行くようになってからは、その間に仕事をするようになりました。子どもができてから、かえってメリハリがついて良かったです。
――ちっち君の音楽教育は? 雅楽を後世に伝えてほしいですか?
僕が元々昔のロックが好きなので、家ではローリング・ストーンズやディープ・パープル、レッド・ツェッペリンなどが流れています。その影響で、ちっちもロックが好きになりました。見よう見まねでドラムも叩けるようになったんですよ。
東儀家は奈良時代から続いていますが、僕からは、ちっちに雅楽を学んでほしいとは言っていません。ちっちはロックが好きだし、科学や宇宙も大好き。無限の可能性があるんです。
ちっちは僕のステージも見ているし、雅楽や古典の雰囲気も知っている。それで雅楽を学びたければサポートするし、ほかの道を選んでもいい。向いていないのに雅楽を押し付けたりしたら、人生が台無しになってしまいます。
雅楽のステージに連れていくのは、知識として持ってほしいからです。そうすればちっちにも雅楽について語り継いでもらえます。何代か先に、雅楽に興味がある子孫がいれば、その人が雅楽を継げばいいと思っています。
――伝統芸能というのはもっと厳しいイメージがありました。
僕自身だって「雅楽師」という職業で終わらないかもしれませんよ。今55歳ですが、この先陶芸に目覚めて、その道で大家になるかもしれません。そうしたら僕の肩書は「陶芸家。雅楽をやっていたこともあり」なんてなるのかも(笑)。
人の可能性は無限です。子どもはもちろん、大人も変われます。
(取材・文/福村美由紀 写真/吉村永)