「鏡」をモチーフに試行錯誤の稽古
「げんき?」
「きんげ?」
新国立劇場の地下で行われている、『かがみのかなたはたなかのなかに』の稽古場。せりふを発しているのはダンサーの首藤康之さんと近藤良平さんです。体の細かな動きを隅々までチェックしながら、お互いの動きを合わせていきます。
ふたりはタナカとカナタ、鏡のこちらとむこうで対になって演じる役。ダンサーといういわゆる「体のプロ」であるふたりの動きは、まるで本当に鏡を見ているかのようにぴったり。作・演出を手がける長塚圭史さんも加わり、セリフのイントネーションも入念にチェックしていきます。「まだですか?」「かすでだま?」逆さ言葉になってもそのニュアンスが損なわれないように、一つ一つの音を確認しながら進めていきます。
続けて稽古場に入ってきたのは松たか子さん。動きやすいよう髪を後ろで一つにまとめ、スニーカーという出で立ち。飾り気のない格好がかえって、彼女のプロフェッショナルな風格を引き立てます。
稽古に臨む女優の松たか子さん。親子向けの舞台『かがみのかなたはたなかのなかに』に出演する
松さんが演じるのは長塚さん演じるコイケの鏡合わせの人物、ケイコ。コイケは鏡に映る姿を見て自分を美女だと思っているけれど、ケイコが鏡を見た時に映るのは冴えない姿のコイケ……という不思議な設定です。しかし、それゆえに難しい役どころ。この設定を感覚的に理解してもらうにはどうすればいいのか? とても同一人物だと思えないふたりを、鏡の特性を活かし、動きを揃えたり、セリフを繰り返すことで同じだと観客に思わせるため、試行錯誤を繰り返す4人。複雑な動きに時おり混乱しながらも、芝居を作っていく4人はそれをむしろ楽しんでいるよう。時折聞こえる笑い声からは、メンバー同士の信頼の厚さがうかがえました。
どうやったら鏡のように見えるか、試行錯誤を繰り返す近藤良平さん(奥)と首藤康之さん(手前)
『かがみのかなたはたなかのなかに』は長塚圭史さん、近藤良平さん、首藤康之さん、そして松たか子さんの4人による、新国立劇場がおくる子ども向けの新作舞台。同じキャストで演じた前作『音のいない世界で』から2年半ぶりとなる公演です。新国立劇場ではこの公演のために、座席の最前列3列を親子向けに優先的に手配する「こども優先エリア」を設置(6月22日をもって全席が一般に開放された)。夏休みにあわせた「大人も子どもも楽しめる」公演に向けて、稽古中の松さんにインタビューしました。