面接のときの「ママでも大丈夫」を鵜呑みにした

―― そして、後に「失敗だった」と思われる転職先に転職されたんですよね。

稲川 転職先は外資系損保会社の営業でした。面接官に「自分の奥さんも保育士だし社内にもワーママは何人かいるから、ママでも大丈夫な職場です」と言われ、ワーママにも働きやすそうだと安心していたのですが、実態はずいぶんと異なりました

 2カ月間の試用期間のさなかに、私の子どもがケガをしてしまい、病院に付き添うために会社を3日間休んだんです。すると「それは困る。試用期間をもう1カ月延長する」と一方的に言われました。1日100件くらい営業に回って、決められたノルマをきちんと達成していたにもかかわらずです。

 定時は朝9時からでしたが、夕方の残業が禁止されているので、ほかの社員はみんな朝8時に出勤していました。歩合制なので朝早く出社しても時間外勤務手当はつきません。通っていた認証保育園の開園時間は7時半。通勤に1時間かかるので、私はどうしても8時までに出勤するのが難しかった。個人情報を扱っている業務なので、自宅に仕事を持ち帰ることも禁止されていました。

 仕事で結果を出すことができなければ、半年で給料が下がり、東京都の最低賃金くらいになってしまう。そのために入社1年程度で辞める人が多いことも分かってきました。そして社内のワーママはママとして転職してきたのではなく、独身時に入社してその後ママになっている人達でしたので、研修から始めなければならない自分とは状況が異なっていました。転職活動をしているときにはまったく気付かないことばかりだったんです

小野 私は転職活動を始めて間もなくのとき、経験のある新規事業の立ち上げの仕事を探していました。すると、私も夫も利用していたITサービスのHP上に「新規事業立ち上げにより社員募集」という文言が目に入ったんです。「勤務地が近いので、保育園のお迎えにも間に合いそう」と思って。そして何より自分自身がユーザーとしてサービスになじみがあったので、つい飛び付いてしまったんです。

 ところが実際の仕事は新規事業の立ち上げというよりもコールセンターでのカスタマー対応業務がほとんど。人事部に苦情を訴えても「そのうち新規事業もやりますから」と、のらりくらり。ただ、あまり文句を言い続けると「あなたが辞めても、ほかに代わりはいくらでもいる」というような雰囲気になってしまうので気を付けました。

 当時、正社員のワーママは私だけ。子どもの熱が出て2時間早く退社することになると告げると「じゃあ、明日2時間プラスして働ける?」と言われるんです。悪気はないようなのですが……。ワーママが時間で仕事をカバーできないことが全く理解してもらえない。このままでは続けられないと思い、水面下でまた転職活動をしようと決意しました。

「会社側が『ワーママへの配慮をします』と言ってくれても、実際にワーママとして働いたことのない人ばかりの環境では、理解されにくい」(小野さん)
「会社側が『ワーママへの配慮をします』と言ってくれても、実際にワーママとして働いたことのない人ばかりの環境では、理解されにくい」(小野さん)