価値観や生活様式の固定観念を捨て、相手を観察する
ジー・エー・ファクトリー株式会社代表取締役の尾崎美都夫さん
阪部 尾崎さんは住宅の建て主とその家族一人ひとりの思いを吸い上げて家を設計していくとおっしゃいました。ビジネスの世界においてグローバル化の波は避けられず、ある日突然海外からバイスプレジデントがやってきて、「翌日から上司が外国人」という話もよく聞きます。
尾崎さんの場合、建て主が外国人というケースも多いとか。価値観や生活様式の異なる相手と生活に密着したレベルでコミュニケーションをする難しさはないのですか?
尾崎さん(以下、敬称略) 全く日本語が話せないクライアントとの仕事もありますが、海外の方が日本で家を建てる場合、たいてい配偶者が日本人であるケースが少なくありません。
そうはいっても相手がアメリカ人の弁護士で、「土地を購入したのだが、最初に契約した設計士とトラブルがあって、契約を解約して困っているから手助けしてほしい」という案件はさすがに緊張しました。ご本人が国際弁護士にもかかわらず、さらに日本人の弁護士を介していたと聞いて厄介だな、と率直に感じたのです。
ところが、ご本人に会って話を進めていくうちに全く問題ないことが分かった。「私はあなたを信用してますから大丈夫です」と言っていただき、契約書もごく普通でした。あちらは徹底した契約社会といわれていますが、それは互いに信頼感が持てず、分かり合えないことが前提になっている。互いにガードをするためにきっちりした契約が必要になってくるのであって、信頼関係がしっかり保たれた状態であれば、契約書に依存しなくても対面でスムーズに仕事ができるものなのだと再確認しました。
阪部 それは尾崎さんが何度もおっしゃっている「目の前の人にきちんと向き合う」という姿勢あってのことですよね。
尾崎 そうです。欧米の方は「娘とお風呂に入る」などという習慣はまずありません。でもそれはやはり人それぞれ。国籍や海外の生活習慣をうのみにして「恐らく普通はこうだよね」という先入観で決め付けて話を進めていくと絶対うまくいきません。「娘と一緒にお風呂に入れる日本のシステムが最高!」という方もいれば、玄関で靴を脱ぐ習慣を好ましく感じる方だっている。毎回、一瞬一瞬が真剣勝負の学びの場であることは子育てと同じです。