瑞々しい青春時代の恋愛小説『エンキョリレンアイ』、女性報道写真家の一生を追った骨太な感動作『アップルソング』、動物との魂の交流を描いた最新作『テルアビブの犬』など、小手鞠るいさんが生み出す小説の世界は、豊かな泉のように湧き続けている。詩人として文芸の道を歩み始め、児童文学や絵本など子ども向けの作品も多く発表している小手鞠さんに、夢をかなえる原点となった体験、夢をかなえるために大切にしたい子育てのヒントについて伺いました。
参観日では背筋がピン!と伸びた母が輝いて見えた
―― 今日は“夢をかなえた大人”のお一人として、子育て中のDUAL読者にメッセージをいただきたいと思っています。共働きですと、「子どもの夢を応援したい」と思いながらも「仕事と両立しながらの子育てで、子どもにじっくり向き合う時間をかけられない」という葛藤を抱えている方も少なくありません。小手鞠さんはどんな子ども時代を過ごされたのでしょうか?
私は岡山県に生まれ、高校を卒業するまで岡山で過ごしました。私は56年生まれですが、生まれたときから母は働いていたので、今でいう“共働き”でした。当時は出産後も会社勤めを続ける女性はまだ珍しくて、夫婦共に働くライフスタイルは“共稼ぎ”なんて呼ばれていたんですよ。2人共、岡山の電話局(電信電話公社、現在のNTT)に勤めていました。職場結婚だったと言っていました。
小学校に上がるまでは、両親が働いている間は農業を営んでいた母方の祖父母の家に預けられていて、自然豊かな環境の中でのびのび楽しく過ごしていました。
写真右は、ロングセラーになっている『やくそくだよ、ミュウ』(岩崎書店)と、台湾でも人気の「お手紙」シリーズ(WAVE出版)。いずれも幼年童話
―― 働いているお母さんに対してはどんな気持ちを抱いていらっしゃいましたか?
誇らしかったですよ。授業参観の日に、ちらっと教室の後ろを振り返ると、ずらっと並んでいる皆のお母さんの中でうちのお母さんだけが輝いて見えました。グレーのタイトスカートのスーツをビシッと着こなして、背筋がピン!と伸びていて。社会で働いている女性ならではのオーラを放っていました。よく目もあったのかもしれませんが、「うちのお母さん、素敵でしょ!」と心の中で誇りに感じていました。子どもながらに「私も将来は、絶対に働く女性になる」と心に決めていました。
ところが、私が中学1年生になったとき、思いもよらない“事件”が起きます。