暗闇に浮かび上がる、いくつもの赤いランタン。そよ風に揺れる明かりに沿って、私達を乗せた車はスピードを落としゆっくりと進んでゆく。ここへ来る道中、私の膝の上ですっかり眠ってしまった娘は、その明かりに誘われ思わず開けた窓から入る風に吹かれ、その眠りから覚めた。赤いランタンの終着点こそ、荘厳な門がそびえる“おとぎの国”の入り口だった。
ダナンは、南北に細長いベトナムの中部に位置する港町。2011年にダナン国際空港がリニューアルし、2年後にはさらに新しいターミナルも竣工予定という、アジアで今、最も注目度の高いビーチリゾートだ。成田からの直行便も毎日就航していて、約6時間半のフライトを経て、ダナンへの到着は夜の7時。
かすかに波の音が耳をかすめる静かな夜。ベトナムの寺院を模したエントランスを炎の明かりが美しく照らし、水をたたえたロビーが暗闇に優しく浮かび上がる。深紅の大きなソファ、ウエルカムドリンクのジンジャーティーが、異国情緒満点だ。チェックインを終えカートに乗り込めば、全身に暖かな潮風を浴びて心の針もすっかりリゾート時間に。到着した客室には「Heaven(ヘブン)」と書かれていた。
夜のロビーに浮かび上がる深紅の椅子がドラマチック
ホテルの随所に、水をたたえた空間が用意されている
美しいロビーに掲げられたホテルのある半島のまたの名はモンキー・ベイ
美しい客室の広いテラスで、日の出とともに見た絶景
白と黒を基調にしたクラシックな客室には、壁、椅子、照明など、随所に美しいデザインがちりばめられている。大きなベッドに吸い込まれるように眠りにつき、翌朝、日の出とともに目覚めると、窓の向こうには息をのむほどの壮大な景色が広がっていた。広いテラスに出てみると、眼下には真っ青な海と金色のビーチが広がり、その向こうには手つかずの熱帯雨林のジャングルが迫っている。海に突き出た半島を、風に乗った雲がかすめていく。
その眺めは客室によって大きく変わる。最上階「Heaven(ヘブン)」の開けた絶景から、ビーチ直結プール付きのヴィラ「Sea(シー)」まで、ホテルには高低差のある崖沿いに197室もの客室が備わっている。大型のリゾートなのにあまり人気を感じさせない理由は、半島の中腹を占める39ヘクタールもの広大な敷地にある。敷地の中央には、船を模したトラムがあって、ゲストは「Sea(シー)」「Sky(スカイ)」「Earth(アース)」「Heaven(ヘブン)」の4層をこのトラムで移動することができるのだ。
一番高い「Heaven」に位置する、リゾートクラシックルームで美しい朝を迎える
広い敷地の移動はカートが中心だが、歩いてみると様々な植物に出合える
左/テラススイートの客室には、海に突き出すような屋外のダイニングテーブルが。右/「Sea」から「Heaven」までをつなぐ、船の形をしたトラム
ビーチに直結しプライベートプールが付いた、シーサイド・プールヴィラ・バイ・ザ・ビーチ
パウダーサンドのビーチは、いつでも美しく手入れされている
左/崖に沿って建てられた美しい建築群。右/まるでジャングルの中に浮かぶようなワイドプール
キッズフレンドリーなレストランと、絶品のローカルフード
「シン・チャオ!」と言ういくつもの笑顔に迎えられ、朝食のレストラン「シトロン」へ向かうと、そこには湯気が立つライブキッチンが。胸を高鳴らせるのは、色とりどりのフルーツ、グリーンスムージーや数種類ものヨーグルトなど健康や美を意識したメニューの数々だ。世界一ヘルシーとも呼ばれるベトナム料理ももちろん朝食のビュッフェに並ぶ。一番食べたかった本場のフォーも目の前で調理をしてくれ、娘は自らリクエストしたケチャップたっぷりの卵焼きに、フランス領ならではの焼きたてバゲットを、いくつも食べた。
オールデーダイニングでもある「シトロン」での特等席は、海にせり出したオープンエアのプライベートブース。ベトナムの帽子“ノンラー”を逆さまにしたような空間は、さながら天空の特別席だ。
オールデーダイニングの「シトロン」のキーカラーは、黄色
ライブキッチンが備わる朝食のビュッフェでハーブたっぷりのフォーをいただく
左/海抜100メートルの特別席。天空のダイニングはぜひ体験したい。右/優しいスタッフ達の温かな笑顔の出迎え
ホテルには全部で3つのレストランがあり、「シトロン」の他には、5つ星のミシュランシェフが極上のフレンチでもてなしてくれる「ラ・メゾン1888」と、ビーチに直結した海辺のレストラン「ベアフット」が。「ベアフット」では、生きた魚介を調理するグリル料理やイタリアンが楽しめる。フレンチのみ6歳以上からの利用だが、インルームダイニング(ルームサービス)を含め、キッズメニューがとても豊富なのがうれしい。インターコンチネンタルならではの、食育の概念に基づいた独自のキッズメニューに加え、ローカル料理の子どもメニューまでそろう。さらに驚いたのが、リゾート内のレストランでは5歳以下の食事がすべて無料であることだ。
イタリアン&グリル料理のレストラン「ベアフット」は、ビーチ直結
左/フレッシュな野菜と自家菜園のハーブをちりばめた、魚介のサラダ。右/キッズメニューはパスタの種類やソースまで選べる本格派
敷地内では、たくさんの種類のハーブの栽培をしている
個性的なインテリアデザインでまとめられた「ロング・バー」。ビーチに続くクッションコーナーは、小さな子ども連れにうれしいスペース。近くには、アイスクリームやポップコーンを提供してくれる子どものためのキッズバーまで
プライベートな空間で、家族そろって楽しめる充実のアクティビティー
通称、「サンペニンシュラ=太陽の半島」の一角に位置し、外からアクセスできないプライベートなホテルには、その名の通り太陽の光にあふれた美しいプライベートビーチがある。1㎞にも及ぶそのビーチに沿って、プールが3つ。充実したスパ施設が備わり、アクティビティーも豊富だ。半島のトレッキングツアーや、ヨガ、料理教室、バスケットボート・ランタン作りなども体験可能だ。豊かな海と敷地の広さ、親子それぞれが楽しめる豊富なアクティビティーは、ホテルの中だけで過ごすには十分過ぎるほど。世界中からやってくるファミリーゲストもぜいたくな気持ちで、思い思いにのんびりとした時間を過ごしている。
趣向を凝らしたプールは、全部で3つ。冬でも30℃を超す夏日もある
ランタンメーキングに挑戦。ベトナム人の作家さんが丁寧に教えてくれる。他にベトナム帽子作りもある
語学の心配はご無用、キッズクラブで英語デビュー
インターコンチネンタルのキッズクラブ「プラネット・トレッカーズ」も、家族連れに人気だ。プレイルームでは世界中の子どものゲストが自由に遊べる。4~12歳であれば無料で子どもを預けることができる。デザイン度の高い遊具の他、時間ごとにプログラムも用意されており、伝統のゲームや貼り絵、粘土、キッズマニキュアにフェースペインティングなど、体験と学習の場はにぎわいで満ちている。基本は英語だが、語学の心配はご無用。1時間のスパの間だけ……と思い、娘を預けて戻ったときには、片言の英語しか理解できなかった娘にも仲良しの女の子ができ、先生と手をつなぎ笑う姿に、こちらの気持ちも開放されなんだかうれしくなってしまう。
かわいい空間は、子ども向けの家具類もすべてオリジナル
母親業をしばし忘れ、極上のトリートメントで美しくなる
ブロンズの美しい屋根に包まれたスパ棟は、客室やプールから離れたリバーサイドの静かな場所に。「ハーン・ヘリテージ・スパ」では、ベトナムとタイが融合した施術と、オーガニック成分100%のプロダクツを使い全身をくまなくトリートメントしてくれる。力強さと心地よさが融合する極上のトリートメントは、世界の名だたる賞も数多く受賞している。
翌日には、世界的に注目を浴びつつあるネイルトリートメントサロン「ペディ・マニ・キュア・スタジオ」へ。フランスの足専門医、バスチャン・ゴンザレスが手がけるサロンは、近く日本への上陸も予定されているとか。マニキュアと聞くとネイルカラーで美しく装うことを想像してしまうが、このサロンが目指すのは、ネイルカラーなしでも美しい健康的な足。医療器具のように消毒された道具を、まるでオペのように一人一人に用意し、丁寧に爪から足や腕全体を磨いていく。私の隣で大人と同じ席に座って、4歳の娘も施術を受けたのだが、普段小さな巻き爪に苦戦し「痛いからやめて」と言われていた娘の爪のケアも、まったく痛みを伴わず美しく仕上げてくれた。1カ月ほども持つというつやつやの爪と足に生まれ変わり、ペディキュアなしの素足に自信が持てるなんて、なんともうれしい。
華美過ぎないシックな内装と、オーガニックの香りに癒やされて
左/「ハーン・ヘリテージ・スパ」のプロダクツはすべて購入可能。右/「ペディ・マニ・キュア・スタジオ」で、母娘そろってネイルのお手入れ
屋台料理と市場歩き。にぎわいを見せるビーチリゾート、ダナンの街へ
これだけホテル内で充実した時間を過ごせるので、あまり外に出る必要はないのだが、ホーチミンやハノイとはまた違う穏やかな海辺のリゾート地を見てみよう。町の中心には、茅ぶきパラソルが並ぶ美しいノン・ヌォック・ビーチがあり、その周辺にはモダンなカフェと昔ながらの屋台が同居している。町には大きな市場が二つあり、活気あるローカルの空気を感じるには市場歩きはもってこいだ。私達は地元っ子と肩を並べてフォーを食べ、市場のテーラーで子ども用のアオザイをオーダーした。
ホテルからの観光はダナンの町だけでなく、ユネスコ世界遺産の古都ホイアンまでは車で1時間ほど、王都フエまでも足を延ばすこともできる好立地だ。
リゾート地とはいえ、バイクが行き交うにぎわいを見せる町を子連れで歩き回った後、厳重なゲートをくぐりホテルに戻ってきたときの安心感たるや大きい。そのセキュリティーの高さもさることながら、目まぐるしい町から戻ると、このホテルのデザイン度数の高さに、改めて見ほれてしまうのだ。
ダナン最大の規模を誇る「コン市場」は、日用品から食品まであらゆる物がそろっている
唯一無二のデザイン空間こそ、ホテルの魅力
このホテルは、細部にわたり世界中のどこにもないデザインにあふれている。アメリカ人建築家ビル・ベンスリーは、ホイアンやハノイの伝統的な寺院に影響を受けた荘厳な建築を炎やランタンなどの明かりでドラマチックに演出した。天井からぶら下がるブランコのような椅子、通路を埋め尽くす無数の穴開きレンガ、曲線を描くプール。一つとして同じデザインのないトイレには、地元の作家の小さな器が壁中に敷き詰められていた。どの空間も不思議と居心地がいいのは、そこに手仕事の温かさがあるから。大きなソファに寝転び、見たこともない壁に触れ、ラッパから飛び出す水で手を洗う……子どもと一緒にわくわくしながらデザインに触れられるのは、なんとも楽しい。
上左/コンシェルジュデスクは、昔の薬屋さんをイメージ。上右、下左/トイレに行くのを楽しみにさせてくれる、驚きのデザイン。下右/超個性的デザインのカラオケルームに備わる、美しい休憩スペース
見たこともないたくさんのデザインと、この土地ならではの食事やもの作りに触れる感動。初めて外国人だけの輪の中にわが子を残し、きちんと自分自身をトリートメントする発見とチャレンジ。いくつもの挑戦の背景には、いつもスタッフのこまやかな心遣いと明るい笑顔があった。そのおもてなしこそが、このホテルが持つ大きな安心感なのかもしれない。親子そろってわくわくしてしまう、きっとここは家族皆にとってのおとぎの国。
(文/須賀美季 写真/小山光男)
ベトナムのリゾート地ニャチャンから、さらに北へ。突き出た大きなニンバン半島へのアクセスは、ホテルのボートのみ。ボートに乗り込み、風を切ってコバルトブルーの湾を進めば、熱帯雨林が生い茂る森に、いくつもの木造のヴィラが点在するリゾートが見えてくる。そこはまさに秘境の地、という名がふさわしい特別な場所だ。
美しい湾に沿って、ビーチ・ヴィラが立ち並ぶ
ここには、自然が持つ雄大な地形に沿うように、ベトナムの伝統建築様式で建てられた木造のヴィラが59棟点在する。水上、岩の上、山の中腹など、様々な形状のヴィラにはすべてプライベートのプールが付いているのがうれしい。
岩をくりぬいたような大きなプール、ハンドメードの美しい木造のバスタブ、暖かな海風が通るオープンエアのダイニングなど、ホテルの共有スペースや客室のインテリアはどこも、華美ではなく自然と共生するようなぜいたくさを持っている。広大な敷地内には、ハーブや野菜の菜園があり、ここで収穫したオーガニック野菜はゲスト達の食事に供されるという。環境保護への徹底的な調査がなされたサステイナブルなリゾートには、シックスセンシズならではの概念が凝縮されている。
リゾートの入り口である桟橋は、朝夕にドラマチックな景色を見せてくれる
岩に張り付くように建てられた「ウォーター・プール・ヴィラ」
「ロック・プール・ヴィラ」のオープンエアなバスルーム
「ビーチ・フロント・プール・ヴィラ」ベッドルームからも、プールと海が見渡せる
小高い丘に立つ、眺めのいい「ヒルトップ・プール・ヴィラ」
夕刻に訪れたいオープンエアの「ジェッティ・バー」
ホテルには充実したキッズクラブも備わるが、目の前の大自然こそ子ども達の格好の遊び場かもしれない。ビーチに出れば、シュノーケルやカヤック、スタンドアップパドルなどのビーチアクティビティーグッズも豊富に用意されているし、天気のいい日はホテルが用意してくれるビーチピクニックを楽しんでもいい。雄大な木や巨大な花こう岩によじ登るような冒険はまるでロビンソン・クルーソーの世界だ。
ビーチでこんなぜいたくなピクニックなら、子どもも親も幸せ
子ども用のプレイルームや、遊具もそろっている
さらなる絶景を求めて、トレッキングのアクティビティーに参加
昨年9月には、3世代のファミリーでも一度に滞在が可能な3ベッドルームのヴィラ「ヒルトップ・リザーブ」がオープンしたばかり。この客室だけの専用の道をオフロードバイクで来て、専属シェフがヴィラのキッチンで特別に料理を用意してくれるサービスがあるなど、スリリングでありながら最上級のラグジュアリーな滞在を楽しむことができる。
727㎡もの専有面積を誇る「ヒルトップ・リザーブ」。1泊の宿泊料金はUSD2800~
数多くの賞を受賞している評価の高いスパで、ベトナム式トリートメントを受けたり、無料のライフスタイルコンサルテーションやヨガを体験したり。自然と共生する空間だからこそ、自分自身のカラダを見つめ直すいい機会なのかもしれない。ドラマチックな夕刻、家族で岩をくりぬいたインフィニティープールに身を沈めれば、目の前の海と空とにカラダも心も溶けてしまいそうな気持ちになる。
厳かな雰囲気のスパのエントランス
ドラマチックな自然の舞台でヨガ体験
(文/須賀美季)
⇒詳しい応募要項は次ページにてご案内します。