もう一つ教えたこと。
それは「使ったものは、元の位置に戻す」ことです。
長年、キャバクラの店長を務めている間に私はある特技を身に付けました。それは、しっかり仕事ができる子とできない子を見分けることです。
一番分かりやすいのは、使ったフキンを元の位置に戻せるか戻せないか。使ったものを元の場所に戻せる子は仕事ののみ込みが早く、使ったものを片付けられない子は、遅刻が多く、生活習慣も乱れがちです。使ったものを片付けられれば、次に探す必要はありません。仕事中にものを探す時間ほど無駄な時間はありません。それが分かっているかいないかで、その後の伸びも違ってくるのです。
だから、私は息子に片付けに関してはしっかり教えました。むしろ、私が教えられることはそのくらいしかありませんでした。
自分ができないなら言わない。やってほしいことがあれば背中で見せる
高校へ進学したものの、育ててくれた祖母を亡くし、失意に暮れていた私は、次第に勉強をしなくなり、アルバイトばかりの日々を送るようになりました。だから、私は子どもに勉強を教えることができません。
息子は小さいころから漫画が好きで、夢中になって読んでいました。ある日、息子と一緒に街を歩いていたら、目の前にある看板を指さし、そこに書いてある漢字を読み上げました。
「おっ、難しい漢字を知っているね!」
「うん、だって漫画に書いてあったから」
「おお、よく覚えていたね」
そうやって息子の小さな成功を喜び合いました。
実は私は息子の勉強をまともに見たことがありません。だから「勉強しろ」とも言いませんでした。
子どものころ親に裏切られた私は「大人は本当のことを言わない」「大人は平気で嘘をつく」と思っていました。そしてそんな大人が大嫌いでした。だから自分ができないことは「言わない」と決めたのです。もし子どもにやってほしいことがあるなら、言葉で言うのではなく自分自身が行動し、手本になろうと思ったのです。