小さな図書室で『ふたりのロッテ』に出会った
名作絵本約100作品を生み出した児童文学作家・中川李枝子さん。「最新刊『ママ、もっと自信をもって』が、お父さんお母さん、保育士、先生たちのお役に立てたら」と語る。
私が福島市立福島第二中学校に入学したのは1948年です。教育基本法が制定され、六三制9年間の義務教育がスタートして2年目。まだ校舎がなくて、小学校に間借りし、体育館を板で仕切った教室で勉強しました。
中学校に入ってうれしかったのは、図書室があったことです。間借りしているのに図書室があったのは、「新制中学に図書室を設置すべし。司書はいずれ置くように」というGHQ(連合国軍総司令部)の指導のおかげでした。
図書室とはいっても、書棚はありません。美術室と一緒の部屋に、「図書室」のプレートが下がっていて、大きめの机が1つ置いてあるだけ。本の数も机に並べられる程度で、司書もいません。でも私は本であれば喜んで、手あたり次第に読みました。
そしてある日、岩波少年文庫の『ふたりのロッテ』に出会ったのです。
ウィーンから来たルイーゼと、ミュンヘンから来たロッテの物語。さし絵のついたエーリヒ・ケストナーの新刊本はきれいで面白くて、びっくりしました。女の子だからと甘やかしたりしないし、双子でも個性が違って自立している。
私自身、戦後は男女同権、女学校ではなく、六三制の新制中学に進学できたことがとてもうれしかった。まさに民主主義の時代の本だと感動しました。何より、作者のケストナーは、子どもを一人前に扱い、対等に向かい合っています。興奮冷めやらず私は、夕飯の食卓で家族に話しました。
翌日、母は書店へ行き、刊行されたばかりの岩波少年文庫を買ってくれました。