3児の子育てのためパート保育士に “赤ちゃん用の抱っこひも”に着想を得たカメラ用ストラップで起業
日経DUAL編集部 保育士として働く傍ら、起業して1年でグッドデザイン賞を受賞とは素晴らしいですね。「カメラスリング」は、ストール状を特徴とするカメラ用ストラップ。私は取材や子どもの行事のとき、一眼レフで撮影することが多いのですが、ストラップで首が痛くなったり、カメラの置き場を持て余したり、レンズの蓋をなくしそうになったり……実際に使ってみて画期的なアイデア!と思いました。
「Sakura Sling project」代表 杉山さくらさん
杉山さくらさん(以下、敬称略)ありがとうございます。うれしいです。柔らかくて大きな生地を使ったカメラスリングは、かけたときにカメラの重さを分散して首や肩にかかる負担を軽減する構造です。レンズカバーなどの撮影に必要な小物をコンパクトに収納できるよう、ファスナー付きのポケットを付けています。
―― ご自身の子育てや保育士の経験から“赤ちゃん用の抱っこひも”にヒントを得て生みだしたものとか。保育士から「カメラ」の業界へというのは意外な感じがします。
杉山 私の子どもは今、中1男児、小5・小3女児なのですが、子どもが小さいころは、保育士の正規職員として働いていました。次女が保育園に入園するときに、長女と同じ園に入れなくて…。当時、子どもの保育園のことに夫は関わらずほとんど私がしていましたので、3人の子育てをしながら、2カ所の保育園で子ども3人の送り迎えという大変な1年を過ごした後、「もうできない」と思って、次女が2歳のときに非正規の保育士へと転職したんです。
そこから約3年間は、パートの保育士と子育てに集中していました。次女が年長になり、「もうすぐ子ども3人とも小学生になって少し手が離れる。これから自分の人生設計をどうしよう」と思っていたときに、保育園のパパ友に写真家で音楽家の安達ロベルトさんがいて、ロベルトさんを通じて写真の世界に興味を持ち始めました。
―― 工芸高校を卒業されていますが、もともと写真の世界には興味があったのでしょうか。
杉山 工芸高校で写真は習っておらず、写真を作品として撮ったこともありませんでした。父が趣味でずっと写真をしていたのですが、それまではむしろ私に向いていないと思っていたんです。父が撮った中ですごく力のある写真を見て「私はこれが好き」と言うと、「これは写真の先生に見せると色も構図もダメな写真だよ」と。写真の世界で“いい”とされる作品はきれいだけれど、私にとって面白味がない。私がいいと思うものは写真の世界では“ダメ”なんだとずっと思っていました。
安達ロベルトさんを通じてプロの作品に触れるようになり、「写真は撮った人の内面がすごく映し出されるもの。心の反射神経で写真を撮っていくので『かっこよく撮りたい』と思ったら、その気持ちも写ってしまう。だから、いかに自分の心のままに素直な気持ちで真っすぐ撮るかということがとても大事で、構図は確かにあるけれど、それがすごく大事ということではない」と教えてもらったことからイメージが大きく変わりました。
高校では金属工芸を専攻していて、物作りはもともと得意。「暗室に入ってプリントを焼いたりする作業って、粘土をこねるような手を使う作業だよ」と教えてもらい、それだったら私にも写真ができるかなと捉えるようになりました。
「上手に撮ろうと思っていないのがいい」と、プロの写真家に言われた杉山さんの作品。「自分の撮りたいように撮ったほうがいいというアドバイスをもらい、私にも写真ができるかもしれないと思いました」