アンケートの回答にも見られたのが、「いじめが深刻化し、子どもが不登校になってしまった」というケース。不登校の期間はまちまちで、再び登校できた子もいれば、その後転校をしたという子もいる。共働き家庭の場合、子どもが登校しないことで仕事に支障をきたす可能性もあるのではないだろうか。
いじめの現場からいったん逃れたものの、「子どもが自殺してしまうのではないかと思って目が離せない」「このまま引きこもりになってしまうのではないか」など、新たな不安を抱える親は少なくないだろう。
だが、不登校は本当に「よくないこと」なのだろうか。自らもいじめによる不登校を経験した、ストップいじめ!ナビ事務局長の須永祐慈氏に話を聞いた。
いじめが原因で不登校になる子は全体の約半数
日経DUAL編集部 いじめが原因で不登校になる子どもは、何人くらいいるのでしょうか。
須永祐慈(すながゆうじ) 1979年、東京都生まれ。小学校4年からいじめを理由に不登校。2年半のひきこもりの後、フリースクール「東京シューレ」へ。19歳からNPO がつくる大学に参加、不登校、日本・世界のフリースクール研究 等。25歳で出版社を設立、教育に関する書籍を出版。2012年より 「ストップいじめ!ナビ」に参加。全国各地の学校や行政、市民団 体などに講演活動中。現在、NPO法人ストップいじめ!ナビ副代表理事、学校法人東京 シューレ学園(不登校対象の私立中学校)評議員
須永祐慈氏(以下、須永) 文部科学省の調査によると、2015年度の不登校者数は小中学校合わせて約12万人です。ただし、このすべてがいじめによる不登校ではありません。いじめを理由とする不登校は、データ上では約1.6パーセント。不登校の理由の多くは、不安などの情緒的な混乱や無気力など、本人に問題はあるが、原因が分からないものとして処理されている。でも、小中学生になぜ登校できないかなんて聞いても、言葉でうまく理由を説明できないですよね。
文部科学省が不登校経験者に成人後に行った追跡調査の結果が出ています。いじめなどの友人関係が原因で不登校になったと回答した人は約54%いました。
―― いじめで不登校になってしまうと、このまま自殺してしまうのではないかと不安になる親も多いのではないかと思います。
須永 不登校になる子のほうが自殺率は低いと私は考えています。なぜなら不登校を選ぶ子は、緊急避難という行動ができているからです。
いじめによって自殺してしまう子の多くは、つらい状況でもがんばって学校に行き続けた子です。
いじめに苦しみ、孤独感を覚えながら、「がんばらないといけない」と思った子が、ある日突然限界を迎えて死を選んでしまう。「自殺をしたい」という能動的な考えではなく、追い詰められた結果、死んでしまうのです。「消えたい」「なくなりたい」「この世には自分は存在してはいけない」と精神的に死んだ状態を経て、最後に肉体的な死に至ってしまう。不登校よりももっとタイトな状況で起きていると言えるでしょう。
不登校は自殺につながるというイメージがあるのならば、それは違うということを伝えたいです。
―― 緊急避難ができるということは、親にもサインを送れたのではないか、という気がしてきてしまいます。不登校になるという予兆を、親は感じることができるものでしょうか。
須永 いじめによって孤立すると、緊張や不安が続き、学校に行きたくないという気持ちを抱えるようになります。その状況が続くと、二次症状といって「おなかが痛い」「頭が痛い」「朝起きられない」など身体的な症状が出てくる。そこで初めて「何かがおかしい」と気づく親は多いのですが、実は体調に出始めたときには事態が深刻化していることが多く、そのまま不登校につながってしまう例が多いのです。