今から25年前、1991年に始まったNHK教育番組『ひとりでできるもん!』で料理指導・監修を務めた料理研究家の坂本廣子さん。テレビ番組で小さな子どもに包丁を使わせること自体がタブーだった当時、ミュージカル仕立てで料理方法を紹介したり、当時まだ珍しかったCG演出の料理や食品に対する簡単なクイズコーナーなど、斬新なジャンルを切り開きました。1990年に出版した『坂本廣子の台所育児 一歳から包丁を』(農産漁村文化協会)は今も多くのパパ・ママに読み継がれ、子どもの台所でのお手伝いデビューや日常の中での“食育”について考えさせられるロングセラー本です。
2~12歳の子どもを対象とした「キッズキッチン」を展開する料理研究家の坂本廣子さん。ここでの研究をベースに、子どもの料理体験をサポートする「キッズキッチン協会」を設立。企業CSR、自治体の食育としての「キッズキッチン」を全国で進めている
「1歳から包丁を」というと、まだ言葉もうまくしゃべることができない子どもに刃物や火を扱わせるなんてとんでもない!と思う人も少なくないでしょう。
しかし、「子どもに刃物なんて危ないというのは、大人の思い込み」ときっぱり言う坂本さん。「実は、子どもの手は驚くほどに器用。低年齢の子どもほど真っさらな状態で、一つのことに驚くほどの集中力を発揮するものです。安全に使うルールと段取りをきちんと見せておけば、見た通りのことに集中して取り組みますし、とても慎重で大きなケガの心配はありませんよ」とにっこり微笑みます。
約40年前から、幼稚園や官公庁などが主催する学童を対象とした料理教室で子ども達に料理の作りかたとその楽しさを教えてきた坂本さん。現在は料理研究家として幅広く活動する傍ら、神戸市内の「サカモトキッチンスタジオ」では2~12歳の子どもを対象にした「キッズキッチン」を展開しています。
「自分でできる喜びや、やりたいことができているときの子どもの顔は、満足感でいっぱい。お手伝いしたがる子に実際に料理をさせてみると、こんなにも台所仕事が好きだったのか!ときっと驚くことでしょう。あくまでも主人公は子ども自身。大人は基本的に手を出さずに、『上手だね~』と褒めるだけですが、見たこともないほど喜んで、真剣に取り組みます」
1日の中で子どもと過ごす時間の限られた働く親にとって、子ども達のそんな表情に日常で出合えたときは、日ごろの疲れも吹き飛んでしまうほどうれしいもの。
「あなたはこれができないから、と大人が決めて入り口で拒否してしまうことは、子どもと関わる喜びと自信をつけさせる機会を閉ざすだけでなく、『こんなこと、できるんだ!』と子どもが本来持つ能力を発見するチャンスも失ってしまっているかもしれません。だから、どんな小さなことでもいい。子どもがキッチンに入ってきて『私(ボク)も、やりたい』と言ったら、ぜひ台所育児を始めてみてくださいね」と坂本さんは勧めます。
当日の「ひよこクラス」の参加者は2~4歳の7人。初めて参加する子でも上手に、一汁二菜をおいしく作れた! Yくん(写真左)は、愛情たっぷりママの手作り三角巾&エプロンで参加。「家で疲れているとき、米とぎなどを手伝ってくれてとても助かっています」(Yくんママ)