勝ち負けの世界に身を置くことで、冷静に受け止められるように
高学年の子どもに、何か新しい習い事をさせたい! できれば中学生や高校生、さらに大人になってからも楽しむことができ、さらに脳や精神を鍛えられるようなもの…。たくさんの選択肢の中から、DUALでは囲碁に注目しました。東京都中央区では27年度9校で囲碁が授業に導入されており、伝統文化を学ぶとともに、集中力を高め、思考力や判断力を養い、コミュニケーション力や礼儀作法が身に付く頭脳ゲームとして、教育の現場からも熱い視線が注がれています。
取材に行ったのは日本棋院の「水曜子供教室」です。囲碁はひと言で言えば陣取りを競うゲーム。ルールはとてもシンプルで、縦横19個ある碁盤の線の上に、黒と白を交互に置いて陣地を囲い、黒の陣地と白の陣地を比べて大きな方が勝ち、小さな方が負けとなります。実際、どんな子ども達が、どのような雰囲気で囲碁を楽しんでいるのでしょうか?
当日の講師は、プロ棋士としても活躍する鶴丸敬一 七段。当日は体験も含めて約20人の子どもが参加しました。鶴丸七段が碁盤ボードの前に立つと、子ども達が姿勢を正し「よろしくおねがいします」と大きな声で挨拶し、稽古の時間が始まります。初めは、囲碁の形を覚え、先を読む力を鍛える「詰碁(つめご)」。当日の詰碁問題を前に、子ども達は臆さず「10-5(じゅうのご!)」「3-16(さんのじゅうろく!)」と、碁盤を置く目の位置を表す数字を次々に言い、先の一手を考えていきます。
「じゃあ、例えばここに置いてみるとどうかな?」と鶴丸七段が言うと、「うーん、ダメ。そうするとその先で取られちゃう」と指摘。「じゃあ、ここは?」というように、先の先を読みながら、打つ手のパターンの可能性を頭でイメージし、目でも確かめます。
どの位置に置いたら、相手の石が取れ、確実に盤上で自分の陣地を広く囲めるか。実戦でよく出てくる形を繰り返し行い、パターンの引き出しを増やすことで、初心者でも3手先、1年以上通う子は5手10手先まで頭の中で動きのイメージを描き出すことができるようになるのだそう!
詰碁の時間が終わると、近しいレベル同士で対局タイム。鶴丸七段は一人で2人の子ども相手に同時に対戦します。日々の勝敗が昇級に関わるとあって、みんな真剣! 先ほどの詰碁とは打って変わり、黙々と真剣なまなざしで碁を打つ姿が印象的。静寂の中に、パチ、パチという小さく碁を打つ音が響くとともに、ピリッとした緊張感が漂います。
「集中力や思考力が身に付くのはもちろん、勝ち負けの世界に身を置くことで、勝ち負けの結果を冷静に受け止められるようになります。勝負は紙一重のもので、勝っても次は自分が負けるかもしれない。負けた人の気持ちも自然に分かるので、思いやりも育ちますね。また、囲碁の勝負は正解がなく、追い詰められても粘ることで形勢逆転できるチャンスもあるし、大きく勝とうとするとうまくいかない場合が多い。トータルでちょっと勝てればいい、というバランス感覚も身に付きますね」と魅力を語る日本棋院普及事業部の鈴木秀一さん。
ハンデをつけやすいので、年代や世代、国籍を超えて対戦ができるのもポイント。稽古中に話を聞くときの姿勢や挨拶にも重きを置いていて、「礼儀作法が身に付いた」「最初は受験を意識していなかったけれど、地頭が鍛えられ成績が良くなった」という保護者からの声も聞かれるそうです。
ハンデをつけやすいので、年代や世代、国籍を超えて対戦ができるのもポイント(撮影:鈴木智哉)