チームの良さを引き出し、信頼して任せるのもリーダーの力量
―― 初めてリーダーになられている方への示唆をいただきたいのですが、リーダーになってこれは一番大変だったという最初の壁は何でしょう。その乗り越え方もお伺いしたいです。
坂東 日本学術会議事務局情報国際課長というのは、国際会議を主催するための事務方を学者たちと一緒にするのだけれど、理科系専門分野の自分が全く得意でないテーマに関する会の事務局をするので、その都度ゼロから知識を勉強しなければ単語さえ知らず話もできない。国際会議なので、英語をもう一度勉強しなければならないとか、やはりその新しい知識をインプットする必要はありました。自分の足りない分野を補う努力はその職場に限らず、例えば往復の電車の中だとか、それなりに努力しましたよ。勉強は常にしていかなければいけないけれど、管理職になって自由度が上がったというのが一番良かったですね。自分のやりたいときに勉強できますから。
―― リーダーとして大変だったというよりも、不得意な分野の部署であるために、仕事全体の難易度が当時高かったということですね。ということは、坂東さんはもともと、生まれながらのリーダータイプなんでしょうか。
坂東 こんなこと話すと恥ずかしいんだけれど、おそらく私は上司からは使いにくい部下だったのではないかと自分では反省しています。要するに、言われたとおりに「はいはい」と従うのではなく、「こうしたらどうですか」「ああしたらどうですか」と提案するタイプ。当時から割と本を書いたり、論文を書くのも好きだったから、あいつ全力投球しているのかと嫌味をいう上司もいました。部下たちからすると私は評判のいい上司だったんですよ。これも部下からすると、あなたが思っていただけでしょと言うかもしれない(笑)。でもね、部下には自分の不得意なところをやってもらっていました。尊敬し感謝していたので、チームとして非常にうまく動いていたような気がします。
―― 信頼したうえで「人材育成する」という坂東さんのリーダー術ですね。
坂東 そうですね。これは良い方向に進んだなと印象に残っている管理職経験は、統計局で消費統計課長をしていたとき。家計調査をしたり消費者物価指数などを作っている、統計局の中でも一番のプロフェッショナル軍団が課員で、その道20年30年というベテランたちが多かった。その部署に専門ではない私が課長として入ったんです。彼らが作った統計は宝の山で、面白いデータが山ほどあるのだけれど、十分には活用されていなかった。だから、毎月上がった下がっただけではなく、「家計調査トピックス」として横断的な集計を始めましょう、と。例えば、チョコレートの消費が2月にグッと上がるようになったのは1970年代後半からのこと。家計調査の中で教育費の支出がすごく増えたのは、第二次ベビーブームの子どもたちが高校生くらいだったときで、その子どもたちが進学したり就職したりすると減ったというように、人口動態と家計支出の相関を出してみると興味深い分析結果が得られた。新聞に毎月、消費者物価指数を発表するのだけれど、毎月の数字よりも家計調査トピックスのほうを新聞に取り上げていただくようになると、ベテランの人たちはそれをすごく誇りに思って喜んでくれましたね。
―― チームのメンバーを生かすということですね。ママリーダーたちにとっては、そういう“育てる”というマインドは得意なはずですので、大きなヒントになりますね。
坂東 はい。「わーすごいね。なるほど、こんなこともできるんだ。さすがだね、面白いね」ってね。育てるということは、自分より若くて経験の浅い人に教えるというだけではなく、自分よりも年上で知識も経験も豊富な人に対して、その人たちが今までしてこなかった、やろうと思えばできることを「いいわよ、やってみよう」とちょっと後押しすることも含まれます。自分にはできないけれども、彼らにできることをどのように生かすか。その人が得意でない部分をちょっと私がフォローしたり、色々な育て方があるんです。
―― そこにはちゃんと、相手をリスペクトして立てるという部分があります。よく褒めるというところも大事なのですね。
チームメンバーを尊敬し、彼らの持ち味をいかに引き出せるか