生の感情は咀嚼を 職場は「役割を演じる」くらいに考える

坂東 今まで、日本の職場の男性管理職の場合はほとんど褒めなかったんですよ。やって当然だろう、と。でも、きっとこれから若い人たちは、褒めて育てられた世代が多いから、褒められないとくじけてしまうんじゃないかな。

―― そこはもう少ししっかりしてほしい部分ですか?

坂東 そうね、でもそれを前提として、管理職はなだめたり、すかしたりしないと。それから、ワーママについては私の好みかもしれないけれど、自分の家庭のことや子どものことをたまに言うのはいいけれども、本当に困っている生の感情はあまり言わないほうがいいと思うの。一つのエピソードとして自分の中でネタにできるくらい、きちんと咀嚼したうえで言うのはいい。でも、本当に憔悴して、夫は理解してくれなくて私は孤立無援で情けないということを職場で部下に言ってしまうと、それはやっぱり愚痴になってしまいます。家族のことを全く言わないというまで突っ張る必要はないのだけれど、生の感情のままで不用意に出すのはやめたほうがいい……というのは私の世代の意見かな。

―― いいえ、すごくいいアドバイスだと思います。ご本にもありましたが、リーダーになったら「機嫌良くあることが大事」というリーダー論もすごく印象的でした。今おっしゃったようにずかずかと生の感情で入るのではなく、一つのミニショーくらいの感じでどのような役割を演じるのか、ということですね。

坂東 そうなのよ! 職場では、こういう役割を演じるんだというくらいのスタンスがいいと思いますね。もちろん中には愚痴を温かく受け止めてくれて、なんて人間的な上司だろうと好感を持ってくれる人もいるかもしれないけれど、反発したり、嫌がったりする人もいるかもしれない。だから、あまり不用意に家庭のことは言わないほうがいい。そうは言ってもつい本音が出たりするのでしょうが、少なくとも、自分の素のままで過ごそうとは思わないほうがいいと思います。

―― 坂東さんにはこれまでたくさんの男性上司がいらっしゃりましたが、男性上司とも戦略的に接されたのでしょうか?

坂東 私は末っ子だということもあって、直属の上司からははみ出していて扱いにくかったかもしれないけれど、二段階以上、上のおじさまたちには割とかわいがられたんです。「元気で、一生懸命やっている子」というイメージを持たれていました。

―― 男性同士で固まっていて、女性である坂東先生が寂しい思いをしたり、孤立したりするような立場になることはなかったのでしょうか。

坂東 それは、おそらく若いときから孤立という状態に慣れていたんですね。「肝胆相照らす友達」なんてものは、職場の外に1人か2人いれば十分。職場に女性1人というときでも、職場には自分を全面的に理解してくれる人を求めてはいけないと思っていました。職場は職場、仕事をする場所なんだと。そういうものだと諦めて、職場の外に自分の話を聞いてもらえたり、理解してもらえる人がいてくださいました。


 全面的な理解者は、職場の外に1人か2人いれば十分


―― それはプライベートでということですよね。悩みを聞いたり、共感しあったり。

坂東 でも悩みも、同じ職場でないとあまり細かい部分まで言ってもね、面倒臭いでしょう(笑)。毎日会うわけじゃないし、そうこうするうちに3日ほど経つと嫌なことも忘れてしまったりするしね。職場の手近なところに悩みを聞いてくれる人がいると、それこそ生の感情をそのまま出しがちになりますから、ある程度人間関係の距離を置くくらいでちょうどいいんじゃないかと思いますね。上司と部下も、気を許して距離を縮め過ぎることがあるけれど。それもやはりあまりやり過ぎないほうがいいと思う。

―― のちのち自分も苦しくなりますものね。あまり近づきすぎると。

坂東 いつまでもいい関係が続くとは限らないないでしょう。うまくいかなくなったときに、「実はあの上司はこんなことがあったんだよ」と言われても嫌ですしね。もう一つの私の経験ですが、自分でどうしようもないような悩みや困ったことは、ちょっと風呂敷に包んでそのままそばに置いておく。すると、そのときには本当にどうしようもない、もうおしまいだと思うような大きな悩みでもね、時間が経つと軽くなっていたり、大したことないんだというふうに自分の見方が変わってくることが多いんですよ。

―― 時間を置いて風呂敷を開けてみたときには、そこまで大変なものでもなかったと。1回咀嚼してというのと同じで、いったん冷静になるということですね。

(写真/品田裕美 文・構成/日経DUAL 加藤京子)

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