怒りの中で扱いが一番難しいのは、家族に対する怒り
ネット上や満員の通勤電車など、人の「イライラ」「怒り」の感情に触れる機会は多々ありますが、それよりも親子や夫婦など家族間のほうが、怒りの感情が表に出やすい、ということを経験したママ・パパも多いはず。なぜでしょうか。日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さんに話を聞きました。
安藤俊介 アンガーマネジメントコンサルタント。企業、教育現場にある怒りの問題を解決する専門家。怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。文部科学省も注目している感情理解教育「アンガーマネジメント」の理論、技術をアメリカから導入する。教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどに日々奮闘している。また、アンガーマネジメントのトレーナーの育成にも力をいれている。主な著書に『はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「アンガーマネジメント入門」(朝日文庫)、「怒りに負ける人、怒りを生かす人」(朝日新聞出版)など。
「怒りの扱いで一番難しいのは、実は家族に対する怒りです。なぜかといえば、そこに甘えがあるからです。家族だから受け入れてもらえるはず、と甘えてしまう。人の根底にある思い込みの中に、『家族は自分の言っていることを理解してくれるはず』『家族は自分の言うことを聞くはず』というのがあります。自分の影響力は、外の人に対してよりも家族に対してのほうが強いと思っているんですね」
「その結果、思い通りに行かなかったときに、余計に怒りの感情が強くなってしまうのです。怒りの感情は身近な対象に対してほど強くなって、遠くの対象に対しては弱いんです。実感がわかなければ何とも思えないわけですから。ですので、家族が一番近い対象になってしまう。協会の講座を受けにくる人も、家族の問題を抱えている人は非常に多いです。僕自身も、アンガーマネジメントに興味をもったきっかけが父親との関係でした。家族に対する怒りとの付き合い方は、一生涯を懸けてトレーニングしていくものなのかな、とも思います」
ママ・パパたちは、怒ってしまったことを正当化するために「子供が言うことを聞かなかったから仕方ない」と自分に言い聞かせたり、一方では「ちょっと言い過ぎたかな」と反省したり、という繰り返しだと思います。そもそも家族に対する怒りというのは良いものなのでしょうか、悪いものなのでしょうか。
「怒りの感情自体は良いも悪いもなくて、何が大切なのか、重要なのかを、自分に知らせるための信号です。自分が怒っている=自分の大切にしようとしているものを侵害されているという状態です。大切にしているものとは、たとえば価値観などです。僕たちが怒る理由というのは、すごく簡単に言えば、自分の信じている『~すべき』っていうものが目の前で裏切られたときなんですよ。ですから、自分がどういう『~すべき』を家族に対して持っているのかを理解できないと、なぜ自分がこんなに怒るのかがわからないと思います」