スイスのプロジェクトで脳科学研究を体感
―― 映画を製作する中で、自閉症の子どもの治療や子育てなどについてのリサーチは行いましたか?
ウィリアムズ オーウェンの父・ロンが書いた『ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと』(ビジネス社)を読みました。この本を読むと分かるのですが、両親としての“旅路”がしっかりと書かれています。オーウェンの診断から始まり、自閉症だと分かってからどんなことを学ばなければいけなかったか、その過程が書かれており、非常に参考になりました。オーウェンが診断された当時、自閉症というものがどのように見られていたのか、現在はどうなのか、その変遷も含めて、医学的見地から、そして感情面においても、彼らの道のりが書かれていて、何度もこの本を読んで準備をしました。
それから、スイスの「Human Brain Project」という人の脳をマッピングするプロジェクトでは、脳で今どんなことが起きているのかを学んだり、視覚的に体感させてもらったりもしました。
ディズニーを通して感情を学ぶ「ディズニー・セラピー」
―― 監督は「ディズニー・セラピー」のどんなところが特に良いと思いますか?
ウィリアムズ ディズニーのアニメーション作品は、古典的な寓話がアップデートされて作られていると思います。なので、その時代ごとに、人生のガイドとして使えるものであり、しかも表情が誇張されているから、自閉症の方が世界を読み解く手がかりとして非常に向いているのではないでしょうか。実際に、多くの自閉症の方たちはディズニー作品に引かれるそうです。
そして、ディズニー・アニメーションは、オーウェンが最も情熱を感じるものです。情熱を感じられるものに焦点を当てることができれば、そこから他のこともコントロールできるようになるのではないか、というのがロンの考え方です。非常に興味深いと思います。
オーウェンはディズニー・アニメーションをVHSのビデオで見ています。一時停止して1コマごとに、その場面の感情がどういうものなのか研究できるからだそうです。さらに映画のクレジットを読むことで、字を読むことも独自に学んだそうです。
こういったことを知って、私はディズニー・アニメーション、そしてディズニーに対して新たに尊敬を抱くようになりました。
オーウェンのディズニー作品への深い理解にディズニー関係者も感銘を受けた
―― 本作の製作に当たって、ディズニーはとても協力的だったそうですが、具体的にどのような協力がありがたいと感じましたか?
ウィリアムズ クリエーティブな面において、全くコントロールされず、最後まで何も言われなかったことがありがたかったです。途中経過を見せろとも言われず、ディズニーの映像も好きなように使わせてもらえました。
最もありがたかったのは、これは先例がないことなのですが、本作には独自のアニメーションが用いられていますが、そのアニメーションのキャラクターを、ディズニーの映像と一緒に登場させて、やり取りさせてもらえたことです。これには本当に感謝しています。
本作のストーリーを気に入ってくれたこともあると思いますが、オーウェンがディズニーの大ファンだということが大きいと思います。彼はディズニーから愛されているんですよ。『アラジン』のジャファーの声を演じているジョナサン・フリーマンが、オーウェンの『アラジン』に対する理解が非常に深いと知って感動したり、ディズニーのクリエーターたちも、オーウェンが作品を深く理解して、生きていく参考にしていることに感銘を受けたりしたそうです。
本作を最高の子育てができるきっかけにしてほしい
―― 『ぼくと魔法の言葉たち』は、本当にたくさんのことを学べる映画だと思います。子育てに悩むこともある日経DUALの読者に、この映画をぜひ見てほしいです。監督から読者に、本作を通してメッセージをいただけますでしょうか?
ウィリアムズ どの親にも学んでもらえることが本作にはあると思います。ある意味、子育ての“マスタークラス”的な作品と呼べるのではないでしょうか。この映画は、愛について、そして家族についての物語です。子育て中の方々には感動してもらえると思いますし、インスピレーションや勇気を与える作品になっていると自負しています。ぜひ本作をご覧になって、最高の子育てができるきっかけにしてもらえたらうれしいです。