公立進学組の不安 “後伸び”の土台となる高学年期を過ごすには
一般的に中学受験をする子は、小学3年生の2月から大手進学塾に通い、そこから3年かけて中学受験のための勉強をします。中学受験の入試問題は出題範囲が膨大で、さらに小学校の授業で習う内容よりもはるかに難しいため、塾へ通うとおのずと先取り学習をすることになります。そのため、高学年の段階で、中学受験をする子としない子との間に学力の差が生じてしまうことは否定できません。
「花まる学習会」代表 高濱正伸先生
東京大学大学院卒業、算数オリンピック委員会理事。「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「思考力」「国語力」「野外体験」を主軸に据えた花まる学習会を設立。『小3までに育てたい算数脳』『算数脳パズルなぞぺー』など、著書多数
けれども、高濱先生はこう話します。
「中学受験をするか、しないかは人生における大きな選択の一つかもしれませんが、それがゴールではありません。現時点では、中学受験をする子としない子との間に、学力の差があるかもしれません。でも、それは学習の速度の違いにすぎず、大人になったときに大きな差が出るわけではないのです」
「確かに大学受験だけを考えれば、私立中高一貫校へ進学したほうが、学習カリキュラムが早く進むぶん、受験には有利です。また、中学受験をする子は、小学生の遊びたい盛りに、志望校合格という目標に向かって、ある程度の我慢をしながら勉強をするため、学力が伸びるだけでなく、精神的にも大きく成長します。でも、精神面は、受験をした子もしない子も中学3年生くらいでほぼ同じになります。むしろ、中学受験をしない子は、その先の高校受験で精神面が鍛えられるし、似たような価値観の家庭の子が集まる私学よりも、多様性のある環境で過ごすため、骨太に育ちます」
では、公立組のほうが、長い目で見ると“強い”ということでしょうか?
「いいえ、話はそれほど単純ではありません。私は子育てのゴールは『自分でメシが食える大人』に育てることだと思っています。それには、どんな困難な壁にぶつかっても乗り越えられる精神的な強さや、様々な人と関わりながら生きていく対人力が必要です。その力を育むのに欠かせないのが、子ども時代に培った自己肯定感です。とりわけ、小学校高学年でどのように過ごしたかが大きなカギを握ると思います」
では、どのように過ごすことが理想なのでしょうか?
“受験をしない”ならではの強みをつくる3つの体験
中学受験をせず、地元の公立中学校に進学する子は、小学校時代にがむしゃらに勉強をする必要はありません。だからと言って、遊びほうけてよいのかと言えば、そうとも言い切れません。なぜなら、公立組はその先に高校受験が待っているからです。
高濱先生はこう話します。
「確かに、公立組にとって高校受験は大切ですが、小学生のこの時期から先取り学習に力を入れる必要はありません。それよりも、自由な時間がたくさんある今だからこそできることをしてほしいと思います。この時期に取り組んでほしいのは、何かに没頭したり、考えたり、自分に自信をつける体験をすること。その経験が、その後の勉強に対する意欲や“生きる力”へとつながるからです」
そこで、高濱先生に、中学受験をしない子が、高学年のうちにやっておきたいことを3つ挙げてもらいました。
<中学受験をしない子が、高学年でやっておきたいこと>
(1) 英語力を身に付ける
(2) 自立を促すやや厳しめのキャンプに参加させる
(3) 社会の矛盾に気づかせ、考えることを習慣づける
それぞれについて、次から詳しく説明していきましょう。