他人の中に、どこか似ているところを見つけることが、人生の味わいにつながる

―― 友達関係だけでなく、母と娘の関係も四人四様に出てきますね。自分の母のことは、母の30~40代のころ以降しか知らないじゃないですか。その年齢を自分が超えたことで、ようやく分かるようになったり。それがぐるっと一周して背中が見えるっていうことなのでしょうね。

小島 そうですね。真知子は、弟のことばかりかわいがる母に自分のことを見てほしかった人。シングルマザーに育てられた宏美は、一見母との関係は良好ですが、老いた母を自分が支える立場になります。母娘の関係が変わっていくことに途方に暮れているんですね。駆け落ち同然で親元から飛び出して結婚した郁子は、母のことを諦めざるをえなくて、もう自分に都合のいいストーリーに書き換えてしまっています。田舎育ちがいやでいつか一発逆転したいと思っていた弓子は、田舎から出ることがなかった母を超えてやる!っていう気持ちが強くあるのに……と、4人それぞれの痛みを抱えていて、そのことから楽になる道を探しているんです

―― さらに夫婦も4組それぞれですよね。

小島 夫婦って「どうしてなの、こいつっ!」って思ったり「この人がいるから生きていけるわ」と思ったり。色々なときがあって、ややこしいですね。でも、それも人生の味わいだと思うんです。私は郁子の割り切り方が好きですね。私自身はもう、こういうものなのかなと……。

―― 達観してる! お釈迦様みたいですね。

小島 解脱なんてしてませんよ! 味わい深いとは思うけど、泣いて怒鳴りながらですから(笑)。でも、こんなことをできる人間関係って、他にないでしょう。ある種、執着ですよね、夫婦関係って。たくさんぶつかって、しんどい時間も経て、それでも一緒にいることで、醍醐味に至るというか

―― 友達関係、母娘関係、夫婦関係。この小説の「読みどころ」はたくさんありそうですね。小島さんは、この4人のどのタイプに入るんでしょうか?

小島 私そっくりの人はいません。そして4人の誰とも、たぶん友達にはなれないです(笑)。だけど、4人とも他人とは思えないんです。読む人にとっても、めんどくさいけれど、身に覚えがある……ってことが多いかもしれません。誰にも言えない気持ちを案外、この4人が代弁してくれていたりして。そうだったらうれしいな。

 人間は100%いい人も、100%悪い人もいませんよね。人の感情って色々あって、どす黒い部分がある一方で、清らかな部分があります。この人とは合わないなと思っていても、その背中にちょっと自分と似たものを見たりすると、世界も捨てたものじゃないなと思ったりして。

 30代、40代になると、友人でも夫婦でも親子でも、私もあなたも必死に生きているよね、よく頑張っているよね、といたわり合う気持ちが生まれて来る気がします。それがね、生きる希望にもなると思うんです

(取材・文/関川香織、撮影/花井智子)