アシスタントという存在の役割
夢の教室でトークの時間の前に行われるゲームの時間。子どもたちと夢先生の距離を縮めながら、クラスの一体感を高めることで、スムーズにトークの時間に移るために重要な役割を担っている。さらに、この時間にはもう一つ、重要な意味がある。それは、夢先生がアシスタントと共に、ゲームで遊ぶ子どもたちの反応を見ながら、クラス全体の雰囲気を見極める時間となっていること。トークの時間をより充実させたものにするため、ゲームの時間がある。
2007年度より正式にスタートした夢の教室は、それ以前にカリキュラムを作り上げるためのトライアル授業を行っていた。当初は、夢先生とディレクターの2名のみ。現在のように、ゲームを仕切る役割のアシスタントはいなかった。そこで、初のアシスタントとなり、夢の教室を一から作り上げてきたのが、元Jリーガーで、現在、J3「SC相模原」の監督を務めている安永聡太郎さんだ。
夢の教室が正式にスタートする以前の2006年2月のこと。トライアル授業で夢先生を務めることになった元Jリーガーで日本代表FWとして活躍した城彰二さんから、安永さんに連絡があった。何でも、夢トークの前に体育館で心身共に体をほぐすためのゲームの時間を試すことになったとのことだった。
「サッカーに興味がない子どもたちも引きつけて、クラスのまとまりを作りたいと思うけれど、1人では難しいからアシスタントとして来てくれないかと。ちょうど所属していた横浜マリノス(現横浜F・マリノス)が主催する『ふれあい授業』というサッカー教室で1年間ほど指導した経験があったので、引き受けることにしました」(安永さん)
自身の経験から「こういうのが面白いと思うよ」と、城さんにゲームの提案をしたところ、ハマった。
「そのときは、アシスタントが子どもたち側に入って一緒に遊ぶという形でした。その後、アシスタントは黒子に徹する形になりましたが、初の試みがうまくいったので、たまたま見学していた川淵さんから、『子どもたちと一瞬で仲良くなってしまうアイツは誰だ?』という話になって、プロジェクトに参加することになりました」(安永さん)
夢先生をサポートするアシスタントと、ディレクターの3人のチームで夢の教室を進めていく原形が出来上がった瞬間だった。
子どもたちとゲームの時間を楽しむ安永聡太郎さん(左)と城彰二さん
夢の教室がいつも新鮮な理由
「色々とトライ&エラーを繰り返しながら、3年目に入ったころには、ある程度、今のゲームの時間の形が出来上がっていった」(安永さん)
ディレクターの今井祐樹さんは、「ゲームの種類は初期の頃からのものも合わせると、80種類くらいありますが、現在、頻繁にチョイスされるゲームは10~20種類。そのなかで、アシスタントは、クラスの雰囲気を自分の目で見て、どんなゲームがいいのか判断しつつ、ゲームをアレンジしている」と言う。
「ゲームの時間を創り上げていくときの基準は、『自分が楽しいか』ということ。夢先生はもちろん、アシスタントも本気で取り組めないような授業では、子どもたちが本気になるはずがありません。子どもは感覚が鋭いので、こちらが手を抜いていたらすぐに分かります。だからこそ、こちらも本気でやる」(安永さん)
アシスタントに求められるのは、「スピード感」だ。夢先生より5分ほど早く体育館に入って、状況判断をしつつ、クラス全体の雰囲気を見極めることが大事だ。
「夢先生より早く子どもたちが待つ体育館に入ってコミュニケーションを取り、ボール遊びなどをして距離感を縮めながら、どの子どもがゲームに興味を持っていて誰が持っていないのかを見極める。そこで、夢先生が自己紹介を始めたら子どもたちの後ろに回って、子どもたちの顔が上がっているのか下がっているのかを確認します。さらに横に行って、表情を見て楽しそうかそうでないか。この反応だったら、こういうゲームから入ったほうがいいだろうといったことを判断しなければなりません」(安永さん)
今井さんは、「ゲームの時間は『協力』『全力』『ルールを守る』という3つのテーマがあります。どのテーマを強調すべきかというアシスタントの状況判断が毎回、重要になっています」と言う。
夢の教室に関わるスタッフ全員が、常にブラッシュアップを続けて、今よりもっといい授業をと、模索し続けている。だからこそ、夢の教室はいつも新鮮なのかもしれない。