待機児童解消プランと別トラックで、こども保険は走り始めようとしている
小泉 待機児童ゼロを最初に掲げたのは、僕の親父が総理だったときだと思いますが、それから10年以上経ってもまだ達成できていないというのは、党を超えて政治に関わる誰もが重要だと認識している課題だと思います。
一方で、「少子化対策は待機児童解消だけでいいのか」という視点も必要です。こども保険で得られる収入を使って、待機児童解消も含めて子ども・子育て支援のためにできること全部をやればいいと思っていますよ。すでに進んでいる待機児童解消プランとは別のトラックで、こども保険が走り始めようとしているとイメージしていただきたいですね。
駒崎 なるほど。ということは、こども保険で得られる少なくとも3400億円規模の予算を、待機児童解消にも使えるようにするということですね?
村井英樹衆議院議員(以下、村井) もちろん、状況に応じて使途は議論していくべきものだと思います。
小泉 つい先ほども教育に関わる方々が参加する委員会でこども保険について説明をしてきたところですが、「バウチャー支給のために使ってもいいんじゃないか」という意見が出ました。実際に運用する際の給付の方法も議論のテーマですね。かつての民主党政権時代の「こども手当」のときにも課題になっていましたが。
駒崎 なるほど。現金給付だとどんな使われ方をするか分からないから、教材など教育目的の支出にしか使えないバウチャー制度がいいのではないかという意見ですね。そして、このこども保険が、政府が6月に閣議決定を目指している「骨太の方針」に盛り込むことを、まずは短期目標にしているわけですね
(※編集部注: 「骨太の方針2017」は6月9日に閣議決定。「幼児教育・保育の早期無償化や待機児童の解消に向け、財政の効率化、税、新たな社会保険方式の活用を含め、安定的な財源確保の進め方を検討」と記載された)
小泉 そうですね。実は昨年の「骨太の方針」にも「幼児教育無償化を段階的に進めていきます」という方針は書かれてあるんです。で、実際の成果はどうだったかというと、平成26年度は約300億円、その後は200億円、150億円、昨年度は約70億円が投入されてきたわけですが、とても無償化達成に追いつくスピード感ではありません。幼児教育無償化を達成するための予算は1兆2000億円です。仮にこれまで出した最大の300億円を毎年投入していったとして、いったい何年かかると思いますか。40年ですよ。このペースでやっていても、子どもはいなくなってしまいます。だからここまで踏み込んだことは、政治として誠実な姿勢ではないかと思います。
駒崎 確かに、いい姿勢です。…しかし! まだぶつけさせていただきますよ。「いや、それ、保険じゃなく国債でもいいんじゃないの?」という反対意見にはどう返しますか?
小泉 国債というのは案にすらなっていないと僕は思いますよ。「案」というのは、どれくらいの負担がどこから必要でどれくらいの収入になり、どういう使い方をするかという具体的なイメージができて初めて「案」と呼べるものです。子育て支援に使う国債をどのように発行して、いくら集め、いつから始めるのかという議論がまだありません。
しかも、2年半後に消費税は10%に上がりますが、その税収の一部は赤字国債の償還に使われるわけですよね。消費税を上げる一部は赤字国債を返すことに使われるという傍らで、また新たな借金を生むのは矛盾しないか。さらにいえば、2020年までにプライマリーバランスを黒字化するという目標をかかげているのにどう成立させるのかということも含めて整理することが前提になると思いますね。
村井 保険という仕組みにしていることは、使途を明確に限定するという意図があります。ハッキリ言って、政治家って信用されていないと思うんです。血税を払っているのに、本当に約束した目的で使っているのか。わけの分からないルートを経て、誰かの懐に入っているだけじゃないのか。そんな不信感があることは大いに自覚しています。
だからこそ、受益と負担の関係が明確で使い道が決められる保険の形であれば、「子育て支援だったはずなのに、高齢者へのバラマキに使われた」ということもあり得ない。政治不信を逆手に取った“分かりやすさ”を売りにした政策であることも伝えたいですね。