西口洋平 ステージ4のがん告知 「キャンサーペアレンツ」への思い

 参加者たちの自己紹介の後は、今回の交流会を企画・運営し、「キャンサーペアレンツ」を主宰する西口洋平さんが登場。西口さん自身も「胆管がん」と医師から診断され、0期から4期まであるがんの進行度の分類で、最も進行した段階であるステージ4という告知を受けた。現在も週1回ペースで治療を受けながら、仕事も継続。2016年4月に立ち上げたキャンサーペアレンツは、1年強で現在1000人以上が登録し、オンラインを中心に交流をしている。

 西口さんは、自身のがん体験を経て、キャンサーペアレンツを立ち上げた経緯を次のように語る。

 「僕は妻と8歳の娘を持つ、一般的な37歳の男性です。『ステージ4のがん』であることを除いては。小学校から大学まではサッカーをずっとやっていました。神戸の大学を卒業して、約15年前にベンチャー企業へ就職。15年前は“ブラック企業”という言葉もない時代、長時間残業という概念もなく、朝から晩まで働きノルマを達成するのが当たり前という環境でした。2008年リーマンショックによる不況も乗り越えて、当時50人ほどだった会社の社員の数は、今ではグループ連結で2000人以上に。当時、あれだけ反対していた親も今は株を買っているくらい(笑)。山あり谷ありでしたが、結婚して子どもにも恵まれ、ささやかながらも順風満帆に過ごしてきました」

 「娘の幼稚園卒業・小学校入学を控えた2015年2月に、胆管がんが見つかります。大きな手術が必要と言われ病院ですぐに手術をしたけれど、転移が見つかりがんへの処置を施すことなく2時間ほどで終了。その後、ステージ4という告知を受けました。『手術はできない状態』と医師から告げられ、そこからは抗がん剤による治療を続けています」

「キャンサーペアレンツ」を主宰する西口洋平さん。自身ががんと宣告されたときに覚えた孤独感から、がんと闘う仲間同士でつながり前向きに毎日を生きることをサポートする
「キャンサーペアレンツ」を主宰する西口洋平さん。自身ががんと宣告されたときに覚えた孤独感から、がんと闘う仲間同士でつながり前向きに毎日を生きることをサポートする

 「当初は入院しながら抗がん剤治療を行い、その後、通院での抗がん剤治療へ。僕の場合は、手術をしなかったために回復が早く、3カ月で仕事に復帰できました。それまでに会社を続けて休んだのは、新婚旅行のとき1週間だけ。3カ月の間会社を休むということは、僕にとってそれだけでも大きな冒険で、復帰後は仕事と治療をする生活に慣れるのに必死でした」と西口さん。

 それまでの仕事の実績や職場との信頼関係を軸に、職場の理解も得て、西口さんは病気と闘いながら仕事を継続する。しかし、2016年の春、2種類使用していた抗がん剤のうちの1種類にアレルギー反応が出て使えなくなってしまった。

 「それを機にがん発覚後初めて、セカンドオピニオンを受けることを決意。抗がん剤治療以外の方法、つまり手術が可能かどうかを確認するため、がんの名医に話を聞きに行ったところ、かかりつけの病院から送られる紹介状(診断書)上の症状と、目の前にいる僕の症状を見比べ、びっくりして二度見されました」

 セカンドオピニオンでの医師による診断は、「手術はできない」「この状態を維持できているのは奇跡」「できるところまで抗がん剤治療を続けましょう」というもの。

 「僕の中でどこか薄れていた死に対する恐怖がよみがえり、『やりたいことを、今やらないと後悔する』と強く感じました。がん発覚当時、娘は幼稚園の年長。僕には家族がいて、地元には親もいる。会社に復帰できるか、治療にどれだけかかるのか、お金のことも心配です。そもそもいつまで治療が続くのかも分かりません。ものすごく不安なのに、周りには同じような人がおらず、まさに“真っ暗”“どん底”の状況。ある日、がんについて調べてみると、小さいお子さんがいるがん患者は約6万人くらいいるということを知りました。相談できる相手がいない、がんだと宣告されたときの孤独感。家族のこと、仕事のこと、お金のこと……同じ境遇の人が周りに本当にいなかった。そんな僕みたいな働き盛り世代で、がんと闘う人たちをサポートしたい。そういう不安を気軽に話し合える人を探したいと始めたのが、キャンサーペアレンツです」

「働き盛り、子育て世代の30~50代ががんになったとき、相談できる人が周りにいない」。孤独感や不安を抱いた西口さんの経験を基に、キャンサーペアレンツは生まれた
「働き盛り、子育て世代の30~50代ががんになったとき、相談できる人が周りにいない」。孤独感や不安を抱いた西口さんの経験を基に、キャンサーペアレンツは生まれた

 2016年4月にセカンドオピニオンの診断を受けた後、西口さんは2つのことを決意する。1つは、これまでと働き方を変えること、もう1つは、キャンサーペアレンツの活動を本格的に行うこと。しかし、働き方は変えても、長年勤めてきた会社に対して恩返しがしたい。仕事と子を持つがん患者をサポートする活動を両立することができないか――。

 その決意を、西口さんは当時の上司に思い切って相談する。(1)平日週1回は抗がん剤の投与で働けないこと (2)抗がん剤の副作用など、体調が安定しない時期は別途休みが必要になる場合があること (3)相談できる担当上司を決めてほしいという、働き続けるための3つの希望に加え、会社へ貢献したいという思い、キャンサーペアレンツ設立への思いを真摯に伝えると、上司は西口さんが働けるように調整し、応援してくれた。

 仕事とキャンサーペアレンツの活動を本格的にスタートするため、2016年の夏にいったん退職。週3~4日のシフト勤務に契約形態を見直し、外勤のある営業職から社内でスタッフの管理などを担当する部署に配置換えをした。西口さんの給与は減ったが、抗がん剤による治療、副作用と付き合いながら、仕事と並行してキャンサーペアレンツの地道な活動を続けている。

 「キャンサーペアレンツの登録者の平均年齢は、42歳。がん患者の平均年齢よりも30歳くらい若く、女性が圧倒的に多い構成です。がんの部位や症状も様々なので、境遇ができるだけ近い人を探せるように、がんのステージや年代、がんの部位などで検索することもできます。中でも、ステージ3と4の方を合わせると5割以上。6割が現在治療中で、サイト上で副作用や抗がん剤など治療の話もしています。ステージが進んでいて、今治療中という方が、コミュニケーションを取りたがっています」

 「子を持つがん患者全体からみると、この場に来ていない人のほうが圧倒的に多いんです。どこからも情報が得られず、心の暗闇から抜け出せないという人もいる。キャンサーペアレンツとして当事者の声を集めて、思いや悩みやこうあったらいいというのを、広く情報発信していきたいと思っています。何かアクションを起こすと気持ちが前に向いていく。気持ちが前を向いていくことで、治療へもいい影響が出るんじゃないかと思います。僕自身、余命半年と医師からは言われたけれど、今元気で過ごしていて、告知されてから2年以上生きています。アクションの連続が治療にいい影響を及ぼして、元気に過ごせているのではと感じています。そういうふうに自分の病気と向き合うことで生まれる変化を、キャンサーペアレンツの活動を通じて実現していけたらと考えています」