椰月美智子 『さしすせその女たち』第2話
【第2回】 家事も育児も「当事者意識ゼロ夫」に、苛立ちとあきらめの日々
5歳と4歳の子どもたちを育てながら、デジタルマーケティング会社で室長として働く多香実。
一見、仕事も充実し、子育ても満喫している今どきのワーママのようだが、実際は子育ても家事もほぼ自分でやらなければならない“ワンオペ状態”。共働き夫婦として夫の秀介にも、もっと家事育児をやってもらいたいのだが……。
ある土曜日。シングルマザーのママ友・美帆が土曜出勤というので、美帆の子どもたちの面倒をみていた。4人の保育園児を預かり、夕方になると疲れもピーク。スーパーでお弁当を買って帰宅したら、夫の秀介が帰宅していた。
『さしすせその女たち』 今回の主な登場人物
◆米澤多香実(よねざわ たかみ) 39歳 /デジタルマーケティング会社「サンクルーリ」ソーシャルマーケティング部クライアントオペレーション室 室長
◆米澤秀介(よねざわ しゅうすけ) 40歳/食品メーカー営業職 課長
◆米澤杏莉(よねざわ あんり) 5歳/みゆき保育園年中クラス
◆米澤颯太(よねざわ そうた) 4歳/みゆき保育園年少クラス
◆美帆(みほ) 41歳/去年離婚したシングルマザー。エレクトロニクス関連会社の派遣社員。家庭教師のバイトも掛け持ちしている
◆響子(きょうこ) 5歳/みゆき保育園年中クラス
◆一真(かずま) 3歳/みゆき保育園2歳児クラス
マンションの部屋に戻ると、秀介が帰宅していた。今日は土曜だが、取引先との打ち合わせがあるということで出勤していた。
「あっ、パパ」
杏莉が秀介にかけ寄り、その声に反応して、颯太も目を開けて多香実の腕から飛び降りた。
「早かったのね、おかえりなさい」
「ああ、なんだか熱っぽいから先に帰らせてもらった」
そう言って、コンッ、とひとつ咳をする。秀介は多香実より1歳年上の40歳で、食品メーカーで営業職をしている。昨年課長に昇進し、それに伴い帰宅も遅くなった。
「子どもたちにうつったら大変だから、すぐにマスクしてね。熱は? 体温計、引き出しにあるから計ってみて」
それだけ言って、多香実はキッチンで慌ただしく味噌汁を作りはじめた。スーパーで買ってきたお弁当だけでは野菜が足りないと思い、一緒に購入したほうれん草を急いで茹でる。
「はあ? 弁当? 体調悪くて疲れて帰ってきたのに弁当かよ」
食卓に並べたものを見て、秀介が言う。
「作ってる時間がなかったのよ。今日は朝から響ちゃんとかーくんが来てたの。美帆ちゃん、仕事だっていうから預かったのよ」
それがどれほど大変なことなのかわかっていない秀介は、あー、そうですか、と不機嫌に言う。
