誰かの成功体験が、ほかの誰かにも当てはまるとは言えない難しさ
―― キャンサーペアレンツを運営していくうえで、難しさを感じる部分は何でしょうか。
西口 大きくは二つあります。一つは、サイトの管理面の問題。登録者さんは病状や状況、属性も異なれば、思想や考え方も様々。サイトの中では誹謗中傷や営利目的のような内容でない限り、基本的に自由な発言ができるのですが、良かれと思って善意でした発言がいい方向に向かえばいいけれど、悪い方向へ行ってしまうこともあり得ます。特定の治療方法や食事療法については様々な情報が提供され、患者さんはどの方法を信じてよいのか困惑してしまうことも。そもそも僕の考えが万人に受けるかというとそういうわけではないし、合わない人はコミュニティーに参加してくれません。人によっては立ち入られたくないことがあったり、中にはデリケートな話もあったりするんです。そういった「合う」「合わない」という中で、どこに合わせていくかというのは、とても難しさを感じるところです。
―― 専門的な肩書を持った医師をはじめ、がんの治療や予防について様々な見解があり、多様な情報発信がされています。「がん」とひとくくりに言っても部位も症状も様々。ネット上の何を信じて何を選択するかというのは人によって全く違いますし、受け止め方も異なります。
西口 食事療法や漢方などで「実際に治った」という人もいますが、たまたまそれをやっていたから本人はそうだと思い込んでいるかもしれない。それが効いて治ったのかどうか、本当のところは分からないし、“絶対”とは言えない部分であり、一概にダメなのかも何とも言えないんです。ただ、僕らがやりたいのは、キャンサーペアレンツはそういった治療方法を共有する場所ではなく、「孤独感、不安感、喪失感を軽減し、前向きになれる場をつくりたい」ということ。様々な事態も起こり得るので、そういうことをどのようにうまく管理・運営していくかは難しいところですよね。
リアルな場で子どもを持つがん患者同士が集い、笑顔で語り合う。運営上の課題もあるが、参加者たちの前向きな反応を直接見られることで、生き甲斐や元気がもらえる
自分の子どもに胸を張れるような、持続可能なサービスにしたい
―― イベントでは、資金面の課題も強調していました。
西口 もう一つは、運営資金を得ることです。持続可能な組織としてサービスを継続していくためには、「寄付金」や「善意」だけでなく、自らでお金を生み出していくシステムづくりが必要だと痛切に感じます。「子どもを持つがん患者のためのサービス」というテーマで集まる場所の提供や手伝ってもらえる人や企業、当然お金もかかってくるのでそういうところの協力をしてくれる人をどこまで多く増やすかというのは運営していくうえで本当に大事なところです。僕のポリシーとして、がん患者に課金するという仕組みは避けたい。一方、サービスの性質上、ビジネスモデルやサービスの考え方がどうであれ、「ビジネスにするのはおかしい」といった雰囲気や空気が社会にあるのも事実です。「必死でがんと向き合っている人を横目に、お金もうけのことを考えるなんておかしいのではないか?」という意見もあります。
でも、厳しい環境で、誰もやらないから、チャンスなんだと僕は思います。うまくいかない可能性は高いし、批判を受けることがあるかもしれない。でも、もしこのサービスが今後も運営され続けていくのであれば、それだけで自分の子どもに胸を張れるのではないか。娘が大人になったときに、キャンサーペアレンツが存在してがんの人たちをサポートしていれば。それを考えると、すごくいいなと思うわけですよ。そのときに僕がいれば一番いいんですけどね。いつ来るかわからない「死」のそのときまで、生き抜けるために。そして、僕の「死」の先にも、残したモノが残り続けるように、僕は死ぬまでチャレンジを続けていきたいと思っています。
(文・構成/日経DUAL 加藤京子)