そこまで言わなきゃ分からないんですか
小早川優子さん(以下、小早川) 夫さんに、家事育児の分担について話したことはありますか。
詩織さん(以下、詩織) 「私ばかり家事育児やって、大変だ」と伝えたことは何度もありますが、「それは、大変だね」とは言ってくれるものの、「じゃあ、代わるよ」とは言ってもらってないです。そういえば、娘が保育園に入ったとき、送り迎えの分担を持ちかけたのですが、「職場にはそんなことしてる男性は1人もいない」と言われ、「じゃあ、彼だけにさせるのも気の毒かな」「本当にできないんだろうな」と思いました。
小早川優子 株式会社ワークシフト研究所社長。交渉トレーナー。女性管理職育成コンサルタント。慶応義塾大学大学院経営管理研究科 経営学修士MBA。慶應ビジネススクールおよび米国コロンビアビジネススクールにて交渉学を専攻。外資系金融機関に13年間勤務。第三子妊娠中に独立し、交渉を日常のコミュニケーションツールとして活用するハッピー交渉トレーニングHNTを主宰。また、育児休業期間をマネジメント能力開発の機会にする「育休プチMBA勉強会」副代表。3児の母でもある
小早川 ちなみに、夫さんの会社はどこですか。
詩織 ◯◯です。
小早川 あー、あそこは比較的古い社風の会社ですね。男性は、職種や職場の雰囲気でものすごく左右されるんです。でも、保育園入園時にその話を持ちかけたのなら、もう何年も前ですよね。
詩織 5~6年前でしょうか。
小早川 もう状況は変わってるかもしれないですよ。思い込みは「交渉の敵」です。過去の経験から「どうせ言うだけムダ」と思い込んでしまっている人は意外と多いものです。でも、半年前と今日は状況は違うかもしれない。極端な話、昨日と今日でも状況は違うかもしれない。夫の上司が代わったかもしれないし、職場の雰囲気が少しずつ変化しているかもしれない。特に最近は、働き方改革も盛んに言われていますし、思い込みを排除して、小さな希望を持って取り組むと、妥協点が見えてくることがあります。
洗濯については、どういう不満があるのですか。
詩織 干すなら乾きやすいようにピンと張って干してほしいんです。いつもグチャッとしわになったまま干すから、しわの部分が乾かない。
小早川 乾かないとどういう困ったことがあるのですか。
詩織 次の洗濯をしたいのに、干す場所がなくなります。それに半乾きのまま娘が着ることになると、責められるのは私です。
小早川 夫さんは、次の洗濯が控えていることを知っていますか。
詩織 「この干し方じゃ、半日経っても乾いてないでしょ」と言ったことはあります。そのダメ出しは結構何度もしてきてるかも。次の洗濯については…そこまで言わなきゃ分からないんですか! ちゃんとコミットしてないから分からないんでしょ、と責めたくなります。
小早川 残念ながら、交渉に「察して」はないんです。彼の思考パターンでは、たとえコミットしても分からない。
詩織 (少し涙目で)なぜ?
小早川 思考のパターンが違うからです。
詩織 なんか、悔しいですよね。
小早川 洗濯機を回してくれる、ということは、「やらなきゃ」という点は気づいてるんですよね。でも、詩織さんより経験値が少ない。続けて次の洗濯をした経験もないから、干す場所がなくて困った経験もしてない。もし次回、半乾きで娘さんに文句を言われたら、夫さんに「娘は今日、これが理由で怒っちゃった」とその事実を伝えてみましょう。
詩織 子どもの前で夫を責めるのって教育上よくないのでは、と思ってしまいます。
小早川 責めるのではなく、責任の所在をはっきりさせる。もちろん、相手を責めてはいけません。事実を情報としてのみ伝える。「この件は、ママに言われても困る」と、ここだけは縦割り責任にする。あとは「可視化」「仕事化」も効果的です。仕事で使う、工程表みたいなのを書いてみせ、「この段階で乾かないと、納期に間に合わない」みたいな。
詩織さんはお子さんにも、夫さんにも優し過ぎますね。夫の「お母さん」になってしまってる。もしかしたら、夫さんは、過去の詩織さんの反応を見たうえで、「これ以上関わったら妻の領域を侵す」と手を出してない可能性もあります。