感性や感情を揺さぶること、根源的にうれしいと思うことが仕事になる
入山章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学ビジネススクール准教授。1996年慶応義塾大学経済学部卒業。98年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で自動車メーカーや国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2003年に退社。米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学し、2008年に博士号(Ph.D.)を取得。同年よりニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールの助教授に就任。2013年から現職。専門は経営戦略論および国際経営論。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社) 。
日経DUAL編集部 今、未就学児~小学生くらいの子どもたちが社会に出る10~20年後には、ネットやAI(人工知能)がさらに進化して実用化が進んでいるといわれていますね。
入山章栄先生(以下、敬称略) 僕、最近インドから帰ってきたばかりなんですが、今回のインド滞在ではネットやAIで新しいことをやろうとしているスタートアップ企業を回ってとても楽しかったんです。一例を挙げると、患者と医者をネットで結びつけるサービス。初回の診断はAIが担当し、その診断結果を基に医者が遠隔の患者に薬を出したり、次の対応を判断したりするというものです。
―― お医者さんの代わりにAIが診断ですか? 誤診などの問題は…?
入山 逆にAIだから誤診は少ないと見られています。日本では規制があって難しいのですが、医者は空き時間を活用でき、患者はわざわざ遠い病院に出向かなくてもネットで診てもらえる。技術によって時間や距離といった物理的な障害が解決できるんですね。
―― なるほど。AIのような技術が普通にある将来には、親世代でごく一般的に存在していた仕事や業務の多くが取って代わられるのでしょうね。どのようなワーク環境になっているか想像もつきません。
入山 仕事を取り巻く環境でいえば、この先、高い確率で起きるであろう変化は、「つまらない仕事がなくなる」ということです。例えば、数字をひたすら入力するといったルーティンの事務作業。こういったことはほとんどAIがやってくれるようになります。会計的な仕事は人がやる必要がなくなるとはよく言われていることですね。
とても素晴らしい時代の到来だと僕は思っています。ルーティンワークはもちろん大事な仕事ですが、楽しい性質のものかといえば、恐らくそうではないですよね。そういった部分を全部AIがやってくれるようになると、人間にはより「楽しい」「面白い」ものを生み出していくことが求められるようになるんです。平たく言えば、人の感性や感情を揺さぶること、人が根源的にうれしいと思うことがどんどん仕事になっていくんです。僕がよく挙げる例が、ユーチューバーです。
―― ユーチューバーですか! 確かに人気のある人は動画再生による広告収入で生計を立て、れっきとした「職業」になっていますね。