共働き&遠距離婚からの転職 仕事を辞めて妻子が住む街へ
日経DUAL編集部(以下、――) 土岐さんは、一流商社や外資系経営コンサルタント会社などを経て、ユニファを起業されました。起業を志したきっかけは何だったのでしょう?
土岐泰之さん(以下、敬称略) もともと昔から起業をしたい、という夢は持っていました。会社員時代は様々な事業開発や投資に携わってきましたが、起業への漠然とした夢はありつつも、起業のテーマが自分の中でまだ明確に見つかっていなかったんです。それが私自身が結婚し、子どもを保育園に預けて、夫婦共にそれぞれのキャリアを築いていく中で、家族の幸せの中心にある“家族コミュニケーション”の大切さを切実に感じるようになっていきました。「もしも、自分が心から打ち込めることで起業をするなら何だろう」と考えたとき、「家族のためのメディアを作りたい」と思ったのがきっかけですね。
―― 自身のDUALライフの中で、家族のコミュニケーションの大切さを感じるような特別な出来事があったのですか?
土岐 大学卒業後は住友商事でベンチャー投資に関わる仕事をし、その後、東京のコンサルティング会社で働いていました。結婚後は、大学時代の同級生で、愛知県の企業で働いていた妻と遠距離結婚を続けていたんです。その後、第一子の育休中に妻は子どもを連れて上京してくれたので遠距離結婚は一時的に解消されたのですが、妻の育休復帰のタイミングで私が仕事を辞め、妻の職場近くに家族一緒に暮らすという選択をしました。
―― 夫が仕事を辞めて妻が働く土地へ転職するというのは、日本の共働き家庭ではまだ珍しいケースですよね。順風満帆だった一流企業でのやりがいや安定を手放すのには、相当な勇気や葛藤もあったことと思います。
土岐 もちろん、葛藤はすごくありましたよ。ただ当時、私はものすごく忙しくて、毎日のように深夜の時間帯に帰宅するという生活をしていました。妻も、自分の仕事に対してプライドと責任感を持って頑張っていました。育休期間中、慣れた土地を離れてたった一人で育児に悪戦苦闘してくれている妻を間近で見ながら、さらに上京して転職をしてほしいとは、私には言うことができなかったんです。
どんなご夫婦にも言えることだと思いますが、こうした大きな決断を家族がするときは、当事者の夫婦二人にしか分からない部分があるかもしれません。妻とは本当に数えきれないほど話し合いを重ねました。そうする中で、私にとって何より大切なのは家族だと改めて感じました。妻とは19歳のときから付き合って結婚して、お互いにとって仕事が大切なのもよく分かっている。家族で一緒に暮らしたいけれど、現状、働く場所は離れている。家族のこと、夫婦のこと、子育てのこと、様々なことを考慮して、そのときベストだったのは、「私が愛知へ行く」という結論だったんです。
世界初の園児見守りロボットMEEBOを開発したユニファ代表取締役社長 土岐泰之さん
自らの葛藤体験から生まれたテーマを元に起業を決意
―― 実際に、愛知県へ行かれてからはどうでしたか?
土岐 名古屋のコンサル会社に4年ほど勤めました。でも、自分とは縁もゆかりもない土地に引っ越しをして、「これから先どうなるんだろう」「自分の人生のテーマは何だろう」とずっと考え続けていたんです。
―― 考え続けた先に、「家族のコミュニケーション」というテーマとの出合いへとつながるのですね。
土岐 自分自身が葛藤し、大切にしてきたことが「家族とのコミュニケーション」だからこそ、これなら使命感を持って頑張れると覚悟を決めて起業に至りました。共働きで子どもを育てる家庭に、もっと豊かなコミュニケーションを供給できるサービスは何だろう、と改めて考えたところ、保育園などの事業所とインターネット写真提供サービスを絡めた「るくみー」が生まれたんです。