遊びのリスクとベネフィットを、それぞれの立場から考える
—— お二人が主宰する「Make Play Safe勉強会」では、具体的にどのような活動をしているのですか?
遠藤 月1回ペースで開催し、「遊びの場のデザインと安全」をテーマに、作り手が中心となって、専門家から知識を得たり、参加者それぞれのアイデアや経験談などを共有したりしています。
今泉 第1回では、医師で「NPO法人 Safe Kids Japan」理事長の山中龍宏先生を招き、子どもの事故が社会的にデータとして蓄積・共有されていない現状について学びました。山中先生は小児科医として、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生の女の子を看取ったことをきっかけに、子どもの事故予防の活動を始めた方です。
今泉真緒 展示プランナー/デザイナー。1978年、東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。Webデザイナーを経て、オランダにてプロダクトデザインを学ぶ。約13年間、日本科学未来館に勤務した後、2017年1月に株式会社ダズを設立。東京と京都を拠点に、主に科学技術コミュニケーション分野の展示やイベントの企画制作を行う。2歳男児の子育て中。">
今泉真緒 展示プランナー/デザイナー。1978年、東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。Webデザイナーを経て、オランダにてプロダクトデザインを学ぶ。約13年間、日本科学未来館に勤務した後、2017年1月に株式会社ダズを設立。東京と京都を拠点に、主に科学技術コミュニケーション分野の展示やイベントの企画制作を行う。2歳男児の子育て中。
例えば、現在は公園からほぼ姿を消している箱ブランコですが、ブランコの下に子どもが挟まった死亡事故などもあり、2000年ごろから全国で撤去が進みました。実は、それよりも40年も前から何度も事故が起きていた危険性の高い遊具でもあったんです。過去の教訓が生かされずに、未然に防げたかもしれない事故が繰り返されていた代表的な事例だと思います。
遊び場では大なり小なり、様々な事故が起きています。それに関わる組織なり、中立の機関なりが情報を収集して公開していくことで、社会全体で過去の事例を共有していくことが重要になってくるはず。過去のケースをどれだけ知っているか、それが事故を防ぐ想像力の源になっていきます。
遠藤 第2回では非営利任意団体「プレイグラウンド・セーフティー・ネットワーク」代表の大坪龍太氏を講師に招きました。大坪さんは国内のアミューズメント施設の運営に携わる一方で、米国でレジャーマネジメントを学び、遊び場における「リスク」と「ベネフィット」という考え方を紹介しています。
物事には、すべてベネフィットとリスクがあります。リスクをゼロにするには、遊びをなくすしかない。でも、それでは子どもたちから遊ぶ機会を奪うことになります。では、どうしたらいいのか。好奇心や創造力を刺激する「遊びの質」と、事故を防ぐ「安全性」という、相反する要素があるものをいかに両立していくか。それを私たちは考えていかないといけないと思っています。
今泉 「危ないからダメ」というだけでは、子どもたちの育ちのチャンスがなくなってしまいますよね。どうやって、意義あるリスクにチャレンジできるかを考えていきたい。だからこそ、リスクを最小限にする経験値や知識をすべての関係者が共有して、判断することがとても大切だと思います。
遠藤 作り手、使い手、運営、行政といったすべてのステークホルダーが集まって、それぞれの視点からリスクとベネフィットを考えられるといいですよね。そこから実現するための方法をみんなで考えていく。そういうプロセスをできるだけ多く持つことが、安全で魅力的な遊び場をつくっていくと思います。
後編では、遊び場を安全かつワクワクする場所にするために、親ができることをご紹介します。
子どもたちがワクワクするような空間づくりを得意とする遠藤さん。「安全に思い切り遊べること」はデザインワークの最大のテーマ(撮影/栗原論)
(取材・文/工藤千秋 対談撮影/花田梢)