上司の最大のジレンマ「業務をどうやって削減するか」
塚越学さん
東レ経営研究所・上席シニアコンサルタント、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事
日経DUAL編集部(以下、――) 前編では、セミナーを導入するだけでは企業は変えられない、というお話を伺いました。政府が旗振り役となって「働き方改革」が進められていることで、何か変化は見られますか。
塚越さん(以下、敬称略) やはり残業時間の削減には注目が集まっています。各種の調査で“上司のジレンマ”としてよく挙げられるのが「残業時間を減らせと言われても、そもそも仕事が多いわけで、どうやって業務を削減したらよいか悩んでいる」という問題です。働き方改革で残業時間の削減に取り組む企業は増えていますが、現場で上司は悩んでいます。
残業に関しては、これまで企業と社員は「Win-Win」だった側面があったんですね。企業としては、諸外国と比べて時間外割増賃金率が日本は低く、解雇規制も強いので、新しい人を雇うより今いる人を長く働かせた方がコスト安だった。さらに労使協定で「36協定」、特別条項も設ければ経営者は労働時間の上限を気にしなくてよかったわけです。
一方、社員はバブル崩壊後、企業が儲かってもベースアップはされず、仕事を頑張ったとしても賞与は増えなくなりました。バブル期までのように企業が儲かるほど社員の所得が比例していくという時代は終わり、バブル崩壊後は企業の儲けは人件費の削減で構成される傾向が強くなります。だから社員は所得を増やそうとしたら残業を増やすしかなかった。残業代はより生活給になっていきます。つまり、経営者は社員に長く働いてもらってよかったし、社員は生活のためにももっと働きたいという構造が長く続きました。ここで働き方改革して残業削減だと言われると、社員は非常に困るし、モチベーションも下がります。
社員の収入は変えずに、労働時間を減らす
塚越 そこをクリアするためには「人件費の原資はそのままで、労働時間を減らす」。この考え方が働き方改革でこれから重要なポイントになってくると思います。現時点で、残業代を含めてそれだけの人件費を支払ってもうまく回せている企業は、働き方改革で生産性を上げる意味はあっても、コスト削減をする意味はそれほどないわけです。
ある企業では、減らした分の残業代は賞与として社員に還元する、という仕組みを数年前から採用しています。先駆的な取り組みだったので、導入当時はみんな様子見していましたが、ここ1~2年は、国の働き方改革の流れと相まって、似たような制度を検討・導入する企業が増えている印象があります。