「ダイバーシティ」や「女性活躍」が進んできたのは大都市圏の大企業だけ、地方企業や中小企業では女性がやりたい仕事をすることも多様性への理解も、強固に阻む壁が存在するという声があります。その一方で、地方だからこそ追求できる働き方がある、と話す人も。地方で働く女性の今について、嘆きと希望の両面から探りました。

地方で働く私たち ~嘆きと希望~

 2022年に放映された長澤まさみ主演のドラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」(フジテレビ・関西テレビ、以下エルピス)。実話を基にした冤罪(えんざい)事件を題材に、社会の権力構造や報道の在り方など、現実にあるさまざまな問題に対して鋭く問いを投げかけた作品が大きな話題となりました。本作で脚本を担当した渡辺あやさんは、島根県在住の脚本家。地方発の作品の制作にも関わり、NHK制作の京都発地域ドラマ「ワンダーウォール」(18年)や、広島・尾道を舞台にした自主制作映画『逆光』(21年)では脚本のほか広報活動も行っています。エルピスでは、地方にいながらいかに東京のリアリティーを描いたのか? また、地方にいるからこその視点や可能性について話を聞きました。

(上)エルピス渡辺あや テレビ局と政治の闇を島根で描いた ←今回はココ
(下)脚本家渡辺あや 「おばさん」人材は社会の宝と確信した

編集部(以下、略) エルピスは企画・脚本制作から約6年の月日を経て地上波放映が実現。発表する当てのないまま脚本を作り、紆余(うよ)曲折の末に日の目を見た作品なのだそうですね。

渡辺あや(以下、渡辺) 本当に難しくて、途中完全に諦めていた時期があったんです。プロデューサーの佐野亜裕美さんがTBSに在籍していた16年の頃は、企画書が全然通らなかった。「地上波は無理でも、動画配信サービスで成立するかもしれないので書いてほしい」と強く希望され、私自身も書きたくなっていたので最終話(当時は全8話)まで書いたのですが、どこへ持って行っても「これはやれません」と断られて。

 そうこうしているうちに、佐野さんはドラマ部門から異動になりTBSを退社した。彼女が体調を崩した時期とも重なり、この作品がプレッシャーとなり健康が損なわれてはいけないので、「この作品は佐野さんにあげたもの」と思って諦めたんです。でもその後佐野さんは不死鳥のようによみがえって、キャスティングに動きだし、長澤まさみさんが主役を務めてくださることになりました。そして、カンテレ(関西テレビ)に話を持ち込んだところ、カンテレで実現しそうだということで彼女は関西テレビに入社し、エルピスを世に送り出すことができました。

渡辺あや 脚本家
渡辺あや 脚本家
わたなべ・あや/1970年兵庫県生まれ。甲南女子大学卒業。結婚後にドイツに住み、帰国後、島根県で子育てをしながら雑貨店を経営。2003年映画『ジョゼと虎と魚たち』で脚本家デビュー。映画『メゾン・ド・ヒミコ』(05年)、NHK連続テレビ小説「カーネーション」(11年、NHK)、「今ここにある危機とぼくの好感度について」(21年、NHK)など、映画やドラマの話題作を多数手がける

エルピスは、社会に対する危機感そのもの

―― エルピスの地上波放送は、在京キー局ではない関西テレビだから実現できたのでしょうか?

渡辺 なぜカンテレで通ったのかはよく分かりません。この6年の間にいろいろな世の中の変化もあったと思います。企画を立てた頃は安倍政権が強い時代で、私がやりたいと思う企画は、あっても立ち消えになるか、企画自体がなかなか通らない時期と重なりました。メディアのインタビューで与党の批判めいたことを言うだけで場が凍るような雰囲気もあって。政権に萎縮する空気が怖くて書き始めたエルピスは、佐野さんの社会に対する危機感そのものでした。放送の当てもない状態で私に脚本を書かせたことに対するプロデューサーとしての責任感もあり、どんな壁が立ちはだかっても実現しようと死守した感じですね。佐野さんだから成立した企画だと思います。