中学受験をする子どもは年を追って増えています。その一方で、様々な理由から中学受験を見送る親子もいます。高学年時代はのんびりさせたい、習い事やスポーツに時間を費やしたい、うちの子には高校受験の方が向いていそう、1度はトライしたけれど撤退したなどなど。よく考えた結果ではあるけれど、塾通いの子を見ると「やはり中学受験をさせたほうがいいのでは」と気持ちがぐらつくこともあるかもしれません。高学年時代をどう過ごさせたらいいか分からず、結局、何もせずに過ぎてしまうかもと、不安を感じている人もいるでしょう。そこで本特集では、わが子に中学受験をさせないという覚悟を決めた親に、その理由やわが子の進路設計を聞いていきます。「しない」と決めた方だけでなく、中学受験をするかしないか迷っている方もぜひ参考になさってください。

中学受験「しない」親子の覚悟 過ごし方&進路設計は?

脳をバランスよく育てるために大切なのは多様な経験

 わが子が中学受験を「しない」と決めた場合、高学年の3年間をどのように過ごすのがよいのでしょうか。心理学や教育学に造詣が深く、スタンフォード・オンライン高校校長として世界各国に在住する子どもたちと関わり、教育とエドテックのコンサルティングにも取り組む星 友啓さんは、子どもに多様な体験をさせることが一番大切だと話します。

 「中学受験を中心にした生活だと子どもの体験は勉強という認知的な方向に偏りがちです。しかし、人間の脳は全体をバランスよく使うことで、それぞれのつながりが強くなり発達していきます。例えば、喜怒哀楽の感情や社会性の面が育つと、学力向上にもつながるという脳科学の研究結果があります。このことからアメリカの学校では近年、感情や社会性を育てるSEL(Social Emotional Learning)という教育プログラムが取り入れられています」

 さまざまな体験を通じて感情や社会性をじっくり育む余裕が持てることは、中学受験を回避する大きなメリットと言えるでしょう。脳をバランスよく発達させることは、中学生以降で学力を伸ばし、真の実力を身に付けるための土台になります。さまざまな体験をすることは、「あと伸び」のためにもとても大切、ということです。

 ただし、中学受験をしないというだけで、自動的に多様な経験ができるわけではないと星さんは指摘します。

 「中学受験をしないと決めた理由として、多く挙げられるのが『小学生の間は、子どもにのびのび過ごさせてあげたい』というものです。しかし、どういう状況での『のびのび』なら意味があるのかはしっかりと考えたほうがいいでしょう」

【この記事で読める内容】
・子どもの体験の幅を広げるために必要な親のサポートとは?
・間違った親の関わりが、子どもの知的好奇心や探究心を潰す
・高校受験に向けて大事にしたいのは、複数のコミュニティに属しておくこと
・中学受験をしないことで得られる、お金や時間の余裕というリソースをどう生かす?
スタンフォード・オンライン高校校長の星友啓さん。自身も中学受験はせず、公立中学から国際基督教大学高校、東京大学へ進んだ
スタンフォード・オンライン高校校長の星友啓さん。自身も中学受験はせず、公立中学から国際基督教大学高校、東京大学へ進んだ