社会が大きく変化し価値観が多様化する今、私たち40~50代に必要なのは、過去の経験や固定観念にとらわれがちな思考をアップデートしていくこと。教えを請う相手は「人生の先輩」だけではありません。サステナビリティーや社会課題への関心が高く、自分軸で生きることを大切にする若手世代はどのような意識で仕事と向き合い、行動しているのか。Z世代と呼ばれる若手リーダーたちの「頭の中」に迫ります。

Z世代リーダーの頭の中&仕事術

 Z世代の特徴の一つに、「自分がやるべきこと」を実現するために若くして起業する道を選ぶ人が多いことがあります。2016年、22歳のときに日本初のダイバーシティ求人サイト「JobRainbow」を立ち上げた星賢人さんもそうした一人。楽天で長年IR(投資家向け広報)を担当し、多くの投資家や起業家と対話を重ねているマーケットリバー代表取締役の市川祐子さんが、「失われた30年」に育まれた新しい価値観と社会を変える力に迫ります。異世代リーダー対談、2回に分けてお届けします。

市川祐子(いちかわ・ゆうこ)
マーケットリバー代表取締役
1970年生まれ。93年、慶応義塾大学理工学部卒業。楽天(現・楽天グループ)、NECグループで15年間IR(投資家向け広報)に従事。楽天では同社初の専任IR責任者として投資家との対話、資金調達、東証1部上場(指定替え)を担当し、2016年にIR部長に就任する。現在は旭ダイヤモンド工業、クラシコムなどの社外取締役を務めるかたわら、企業のIR担当や起業家向けにコーポレートガバナンスやIRについてのコンサルティングも行う。著書に『ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来』(日経BP)など
星賢人(ほし・けんと)
JobRainbow代表取締役CEO
1993年生まれ。東京大学大学院情報学環教育部修了。大学院在学中の2016年にJobRainbowを起業し、19年にフォーブスが選ぶアジアで最も影響のある若者30人の社会起業家部門に日本人として唯一選出された。これまでに上場企業を中心として、500社以上のダイバーシティコンサルティングを実施。メディアにも多数出演する。孫正義育英財団1期生。板橋区男女平等参画審議会委員

「失われた30年」と私たちは言うけれど…

市川祐子さん(以下、市川) 私は1970年生まれで、社会人になったのが93年。星さんが生まれた年です。これは昨年出版した本にも書いたのですが、ある知り合いの93年生まれの男性は、「失われた20年とか30年っていう言い方が好きじゃない」って言うんですね。

 私たちが大学生の頃はバブル景気で、就職活動中にバブルがはじけました。それ以降、経済の低迷や景気の横ばいが続いていることを「失われた○年」と言うようになったわけですが、93年に生まれた人にとっては「バブルの頃は学生が高級車を乗り回していてさ」なんて話を聞いても、都市伝説にしか聞こえないんですよね。

星賢人さん(以下、星) 本当にそうです(笑)。

市川 あと、私たちが就職したときはレールに乗っていくような感じがあって、1回降りたら二度と戻れませんでした。女性は結婚や出産で一度仕事を離れたらずっと専業主婦かパートで、男性も何かの理由でレールを降りたり、レールに乗れなかったりしたらずっと非正規、みたいな感じです。でも今は、違うレールに乗ってもいいし、途中で1回休んでもいいし、新しい道を自分でつくってもいい。自らが船の船長になり、航路を決めて海原にこぎ出す起業家の道もあって、若くして起業すること、リスクを取ってチャレンジすることがだんだん一般的になってきているように思います。

 そういうさまざまな動きが世の中を活性化しているのに、昔からある大企業の勢いが薄れたからといって、「失われた」なんてネガティブな言い方をするのはおかしなこと。新しい価値観や経済的な価値に目を向けないのはバランスを欠いているし、失礼ですよね。

 「失われた30年」って、経済的なたった一つの指標で見たときの評価にすぎないし、日本でこの時代に生まれ育ったからこその価値観があると思っています。