安定感、知名度、収入面――。大企業に勤めることには特有の魅力やメリットがありますが、大組織ならではの動きの鈍さや閉塞感に悩まされがちなのもまた事実。「この仕事、やってて本当に面白いの?」と聞かれたら「もちろん」と即答できますか? 本当にやりたいことを求めてミドル世代で大企業を辞めた人に、なぜ辞めたのか、後悔はないか、辞める前にすべきことはあるかなど、本音を語ってもらいました。

私たち、大企業を辞めました ~準備したこと、すべきだったこと~

300回の婚活合コンも実らず、1人で生きる覚悟をした

 16年間勤めた法務省を辞め、2019年に独立開業した安彦和美さん。今は、「公務員が職場で言えない話を聞く人」として、個別にキャリアの相談に乗る傍らYouTube(ユーチューブ)で情報を発信し、オンライン教育サービスのUdemy(ユーデミー)で動画講座を販売し、電子書籍端末のKindle(キンドル)で自著を出版……、と精力的に活動の場を広げています。そもそも公務員になったのは「女性であっても働きやすく、リストラもなく定年まで働けるから」という理由だったといいますが、それが一転、「安定」とはかけ離れた選択をすることに。その理由とは。詳しく聞きました。

編集部(以下、略) 人材育成の分野でのキャリアアップを目指し、法務省で保護観察官としてキャリアを積んできたとのことですが、16年勤めた後、なぜフリーランスの道を歩むことになったのですか?

安彦和美さん(以下、安彦) 法務省での仕事は充実していましたし、入省したときは一生勤め上げるものだと信じていました。数年前まで自分が独立するなんて夢にも思っていなかったんです。

 まず、なぜ公務員になったかというと、婚活の成果が出なかったからです。年に100回は合コンするというのを3年間続けました。なんと、300回もした計算になりますね(笑)。でも、全然うまくいかなくて。結婚は諦めて一生自分一人で食べていける職に転職しようと思ったのがきっかけです。

安彦和美
あびこ・かずみ/1974年生まれ、札幌市出身。大学卒業後、自動車部品メーカーに入社。約5年間の人事部門での人材育成担当を経て、2003年に法務省入省。19年に退官し、「公務員が職場で言えない話を聞く人」として独立開業。著書に『公務員が「安全にできる」副業のてびき〈実践編〉: 国家公務員法と人事院規則の根拠解説』(Kindle)など

安彦 晴れて公務員の職を手に入れた後は、「大きな声では言えないけど、私は安泰だし勝ち組。たまに公務員バッシングも受けるけど、税金で収入を得ているのだから我慢しなくては。公務員試験を頑張ったから得られた大きな手柄だもの」と思っていたんです。

 でも公務員になって12年が過ぎた頃、その考えを全否定する人が、目の前に現れたんです。経済評論家の勝間和代さんでした。

 公務員は「なりたい職業」や「結婚したい相手」ランキングでいつも上位に入るし、社会的地位も高いはず。なのに、勝間さんの中では、公務員は職業ヒエラルキーのだいぶ下のほうに属していたのです。