子どもの不登校、自身やパートナーの病気や不調、仕事での行き詰まり……。長い人生には、「困難」が訪れる局面があります。「どうしよう」と悩み、「もうダメかも……」とうずくまることもあるかもしれません。けれど、立ちはだかる困難は、今までの自分から脱皮して、大きく成長するチャンスでもあります。今回の特集では困難に直面しながらも、視野を広げ発想を転換し、働き方や自身の考え方を変化させながら乗り越えた5人のストーリーを紹介します。

「もうダメかも…」と思ったけれど

逆境は「自分の当たり前を見直すチャンス」

 「子育て中だからパフォーマンスが下がったと上司や同僚に思われたくない」――。そんな思いから、育休からの復職以降、これまで以上に全力で仕事に打ち込み、知らず知らずのうちに疲れをため込んでしまっている人は少なくないかもしれません。

 女性の自己実現をサポートする「キャリアメンター」として活動するライフエスティーム研究所代表の福所しのぶさんもその1人。娘を出産した当時、弁理士として勤めていた特許事務所で「パフォーマンスが下がった」「昇格意欲がない」と思われないように、適度な休養を取らず、時に夜中まで働いたり、土日も仕事を家に持ち込んだりしてがむしゃらに働き続けた結果、体調が悪化。娘が5歳だった2018年、何らかの感染やストレスがきっかけとなって引き起こされる自己免疫疾患の一つで難病指定されている高安動脈炎と診断されました。

 高安動脈炎とは10代後半から30代までの若年女性に発症することが多い病気。発熱や全身倦怠(けんたい)感 、食欲不振、体重減少などの風邪のようなはっきりしない症状から始まり、進行するとめまいや立ちくらみ、失神発作や、ひどい場合には脳梗塞や失明を起こす可能性もあります。福所さんは早期発見できたため薬を飲むことで症状を抑えられるところまで回復したものの、ストレスがかかると再発してしまう状況の中、仕事で無理ができない状況に陥ってしまったと言います。

 「育休からの復職後、安定的に実績を出せるようになってきたと実感していた直後の出来事だったので『なんでこのタイミングで……』と葛藤しました。と同時に、これまで激務が続き、疲労がピークに達していたことから、『これは休まなければいけないというサインなのだな』と少し肩の荷が下りた感じもしましたね」

 難病を患い、これまで通りの仕事ができなくなるという大きな逆境に直面したことを、約5年たった今、「自分の当たり前を見直すチャンスだった」とポジティブに振り返る福所さん。棚卸しをして自分のやりたいことを明確にした福所さんは、新たなキャリアと自分らしい両立生活にたどり着きました。「逆境に直面することはすべてがネガティブな経験ではありません。私の場合、『男性に負けることなく、バリバリ働いて結果を出すことが娘のためにもなる』といった、これまで正しいと思って固執し、自分をも縛ってきた仕事への価値観を手放せただけではなく、私が仕事で不在のときが多いことが理由で『ママよりパパ!』という感じだった娘との関係も良好になりました」

 福所さんはどのようにその逆境に向き合い、どう乗り越えたのでしょうか。また、誰もが逆境に直面する可能性がある中、福所さんがアドバイスする「備え」とはどんなものなのでしょうか。詳しく聞いていきます。

福所しのぶさん。2002年に特許事務所に入所。弁理士として勤めつつ、大学の非常勤講師なども務めるが、18年に難病の高安動脈炎を宣告され、20年に特許事務所を退職。難病の発症を機にキャリアの棚卸しをして自分のやりたいことを明確にした。現在は、女性の自己実現をサポートする「キャリアメンター」として活動する
福所しのぶさん。2002年に特許事務所に入所。弁理士として勤めつつ、大学の非常勤講師なども務めるが、18年に難病の高安動脈炎を宣告され、20年に特許事務所を退職。難病の発症を機にキャリアの棚卸しをして自分のやりたいことを明確にした。現在は、女性の自己実現をサポートする「キャリアメンター」として活動する